太一は紗雪から重箱と箸を受け取ると、から揚げを掴んで自分の口に入れた。噛んだ瞬間、肉汁が口の中ではじける。冷めていても十分美味しいから揚げだった。今日は食べることができないと思っていたから揚げを、こんな形でもらうことになるとは思っていなかった。それに紗雪は二人分と言っていた。それが太一のために作ってきたことを指しているなら。
意識した瞬間、胸が痛くなった。以前、柊のことを意識し始めた時に感じた痛み。その時と同じ痛みを太一は感じた。
「このお弁当、森川が作ったのか?」
「そうね。私が作った。さっきは二人分と言ったけど、少し多かったかもしれない」
紗雪は机に広げてある残りの重箱に視線を移した。どの箱も半分は残っている。
「でも、本当に美味しいよ。玉子焼きはいつも甘いのを食べてたから、新鮮だった」
「私は甘いよりもしょっぱい方が好きなの。だからお砂糖は使わずに、醤油とだしで味付けをしてる。お口に合ったみたいで良かった」
紗雪がほっと息を吐いた瞬間、教室内に予鈴が響きわたる。掛け時計に視線を移すと、授業が始まる五分前になっていた。
「そろそろ戻らないと」
太一は机に向かい、箱を重ねるとバッグにしまう。
「月岡君」
「何?」
呼び止められた太一は紗雪の方に身体を向ける。紗雪はポケットから鍵を取り出すと、それを太一の手に置いた。
「これって……」
「合鍵。あなたも今日からここに来ていいのだから」
そう告げた紗雪は太一より先に空き教室を後にした。
太一はその場から動けなかった。まさか紗雪が鍵まで作ってくれているとは。普通なら自分の空間に異性の介入をすんなり許さないはず。太一自身、自分の部屋には勝手に入ってほしくないと思っている。それは身内である美帆も例外ではない。それなのに紗雪はそんなこと気にせずに鍵を渡した。いくら彼女のふりをするからと言って、ここまでしてくれるのはどうなのか。
でも太一はそんな紗雪の気持ちが嬉しかった。純粋に自分のことを思ってくれていると思えた。お弁当を作ってきてくれた紗雪が何か考えているなんて、今は思いたくなかった。
今日から空き教室は避難場所であり、紗雪と過ごす場所になる。そう思うと胸の鼓動が早くなった。その気持ちを抑えるように、太一は空き教室を走って後にした。
意識した瞬間、胸が痛くなった。以前、柊のことを意識し始めた時に感じた痛み。その時と同じ痛みを太一は感じた。
「このお弁当、森川が作ったのか?」
「そうね。私が作った。さっきは二人分と言ったけど、少し多かったかもしれない」
紗雪は机に広げてある残りの重箱に視線を移した。どの箱も半分は残っている。
「でも、本当に美味しいよ。玉子焼きはいつも甘いのを食べてたから、新鮮だった」
「私は甘いよりもしょっぱい方が好きなの。だからお砂糖は使わずに、醤油とだしで味付けをしてる。お口に合ったみたいで良かった」
紗雪がほっと息を吐いた瞬間、教室内に予鈴が響きわたる。掛け時計に視線を移すと、授業が始まる五分前になっていた。
「そろそろ戻らないと」
太一は机に向かい、箱を重ねるとバッグにしまう。
「月岡君」
「何?」
呼び止められた太一は紗雪の方に身体を向ける。紗雪はポケットから鍵を取り出すと、それを太一の手に置いた。
「これって……」
「合鍵。あなたも今日からここに来ていいのだから」
そう告げた紗雪は太一より先に空き教室を後にした。
太一はその場から動けなかった。まさか紗雪が鍵まで作ってくれているとは。普通なら自分の空間に異性の介入をすんなり許さないはず。太一自身、自分の部屋には勝手に入ってほしくないと思っている。それは身内である美帆も例外ではない。それなのに紗雪はそんなこと気にせずに鍵を渡した。いくら彼女のふりをするからと言って、ここまでしてくれるのはどうなのか。
でも太一はそんな紗雪の気持ちが嬉しかった。純粋に自分のことを思ってくれていると思えた。お弁当を作ってきてくれた紗雪が何か考えているなんて、今は思いたくなかった。
今日から空き教室は避難場所であり、紗雪と過ごす場所になる。そう思うと胸の鼓動が早くなった。その気持ちを抑えるように、太一は空き教室を走って後にした。