だからこそ、太一は紗雪と付き合っていることを夏月に告げた。このまま二人が得をする方向に進めるのなら。今はそれが最善だと太一は思うから。
「私は……私は絶対に認めない」
 夏月の声に呼応するように、今度は紗雪の席の方から別の声が上がった。
「うそー。ゼロ型と付き合うって本当?」
 紗雪にそう告げたのは有香だった。
「月岡と付き合うなんて未来ないよ。だってあいつ、柊さんに振られたんでしょ。柊さんも月岡がゼロ型だってわかったから振ったんだよ」
 有香の一言を引き金に、男子だけでなく女子の視線も太一に向けられた。太一は思わず顔をそらしてしまう。
「そういえば、月岡はゼロ型だっけ」
「誰とも結ばれないのに……」
「紗雪ちゃん、付き合うのやめた方がいいよ」
 クラスメイトの会話が、付き合っているという話題からボンドの話に変わった。有香の作った空気に太一は思わず息を呑む。
「紗雪も早く別れなって」
 紗雪の肩に手を置いた有香は笑みを見せていた。有香の態度に誰も反対しようとしない。クラスでカースト上位に位置する有香に噛みつくと、自分にも被害が及ぶと思っている人が多いのかもしれない。それでもそんな有香の発言に噛みついたのは夏月だった。
「ちょっと、流石に酷くない?」
 夏月は有香の方へと歩み寄る。
「何? 文句でもあるの?」
「だいたい、どうしてゼロ型だから別れないといけないの? ボンドで恋愛を決められるのっておかしいよ」
 夏月の言葉に太一は共感を覚えた。太一自身ずっと思っていたことだ。ボンドによって異性との相性の良さが目に見えるようになった。でも恋愛の全てがボンドで決まると断言するのはおかしい。
 有香は夏月のことを鼻で笑った。
「よくそんなこと言えるね。ボンドを見つけて日本中に広めたの、夏月のお父さんだよね。もしかして、お父さんの研究を身内である夏月が否定しちゃうの?」
「ち、違う……」
「それじゃ、夏月は月岡のことが好きなの?」
「そ、それは……」
 夏月は有香の指摘に答えることができず、言葉に詰まった。有香に言われた言葉を意識したのか、夏月の頬はみるみる赤くなっていく。
 太一は我慢できなかった。夏月が自分を庇う理由を知っているから。太一は席を立つと有香に向かって言った。