暫く道なりに歩いていると、紗雪が話しかけてきた。
「それにしても、まだ子供の二人を残して海外に行くなんて、親の行動とは思えないのだけど。普通、あなたと妹さんも一緒に連れていくのが正常な判断じゃないかしら?」
 紗雪の疑問に太一は力強く頷く。
「そうだよな。俺もそう思う。でも、夏月の両親がとても良くしてくれてさ」
「夏月って……星野さんのこと?」
「そう。あいつとは小さい頃から家族ぐるみの付き合いをしてて。だからなのかな。仕事の都合で海外に行かないといけないってなった時に、夏月が提案してくれたんだ。俺と美帆の面倒は星野家で見るって」
「随分気前の良い話ね」
「そりゃ、最初は俺も悪いって思った。でも美帆は中学生になったばかりで。周りに知っている子が急にいなくなるのって、結構辛いんじゃないかなって思って。だから夏月の両親に甘えることにした。流石にすべてを頼るのは申し訳なかったから、美帆と二人でできる範囲のことをやろうって決めたけど」
 太一は紗雪に視線を向ける。紗雪は俯きながら歩いていた。先程までと違う雰囲気に、何か変なことを言ったのかなと思った。
「森川?」
「……妹思いなのね」
 紗雪は笑みを見せるも、その目は笑ってはいなかった。話題を変えようと思った太一は、思い浮かんだ疑問をぶつける。
「それより、森川はどうして家の場所知ってたんだ?」
「手塚君に聞いた」
 あっさりと白状した紗雪が口にした名前を聞いて、太一は納得してしまった。手塚なら言いかねないと。
「明日もあなたの家に迎えに行くわ」
「えっ、それは森川に悪いから。俺が行くよ」
「いいの。私の家、電車に乗らないといけないし、あなたの家は通学路沿いにあるのだから」
「そ、そうか。なんか、ごめん」
「別にいいの。私達、付き合ってるのだから」
 紗雪は「ふり」とは言わなかった。偽ってまでも本当の彼女になりきるつもりみたいだ。
 そんな紗雪のことが気になって仕方がなかった。どうして自分にそこまで肩入れするのか。お互いにとって悪くないと言っても、付き合っているふりをしてまですることなのか。
 ――今は言えない。
 昨日、紗雪は明確な答えを言ってくれなかった。時期が来れば言ってくれるのか。それはこの偽りの関係をまっとうした時なのか。
「月岡に森川。今日は二人揃っての登校か」