紗雪から視線をそらした太一の脳裏に、柊の顔が浮かび上がる。一年間という期間は、太一の気持ちを膨らますには十分だった。柊への未練が心の中に残っている。
昔の自分なら、すぐに次の恋へと切り替えができていた。それなのに今の自分は柊のことを引きずっている。
これが失恋なのかもしれない。太一は初めて抱く気持ちに、困惑を隠せなかった。
暫く沈黙が続いた。ドアも窓も完全に締め切られた密室空間は、正直心地良いものではなかった。太一は紗雪の方に視線を向ける。紗雪は先程から表情を変えずに、太一を見つめ続けていた。太一が話すのを待っているのか、腕組みをしたまま微動だにしない。
このまま待たせるのも悪いと思った太一は、今の自分の気持ちを紗雪に告げた。
「ごめん……俺は森川と付き合えない」
振り絞るように言葉を放った。告白を断ることが、こんなにも勇気のいる行為だったなんて思いもしなかった。断られた紗雪はどんな気持ちなのだろう。
視線を紗雪へと向けた太一は、彼女が見せた表情に驚かずにはいられなかった。紗雪は落ち込むどころか、笑みを見せていたから。
「あなたが私の告白を断ることくらい知ってた。それも含めて、私はあなたに興味があるの」
太一は紗雪の考えていることが理解できなかった。もし自分が紗雪の立場だったら、笑みを見せることは絶対にない。振られたという事実が重くのしかかるはずだ。それにも関わらず、紗雪はどうして笑みを見せているのだろうか。
思考を巡らせている太一に向け、紗雪はゆっくりと口を開いた。
「それなら、付き合ってるふりをするのはどうかしら」
「えっ?」
予想もしていなかった提案に、太一は虚を突かれる。一歩後ずさりをした太一を逃がさないとばかりに、紗雪は太一の方に一歩詰め寄る。
「私と一緒にいるだけでいいの。本当の彼氏になってなんて言わない。暫くの間、彼氏のふりをしてくれれば。私はそれだけでいいの」
さらに距離を詰めてくる紗雪から離れようと後退し続けた太一は、とうとう壁際まで追い詰められる。
「ど、どうしてそんなに彼氏が欲しいんだよ。彼氏のふりなんて誰でもできる。俺じゃなくてもいいはずだろ」
「あなたじゃないといけないの」
紗雪はさらに顔を近づけると、しっかりとした眼差しで太一の瞳を見つめる。鼻と鼻が当たりそうなほど近づいている距離に、太一は思わず唾を飲み込んだ。
昔の自分なら、すぐに次の恋へと切り替えができていた。それなのに今の自分は柊のことを引きずっている。
これが失恋なのかもしれない。太一は初めて抱く気持ちに、困惑を隠せなかった。
暫く沈黙が続いた。ドアも窓も完全に締め切られた密室空間は、正直心地良いものではなかった。太一は紗雪の方に視線を向ける。紗雪は先程から表情を変えずに、太一を見つめ続けていた。太一が話すのを待っているのか、腕組みをしたまま微動だにしない。
このまま待たせるのも悪いと思った太一は、今の自分の気持ちを紗雪に告げた。
「ごめん……俺は森川と付き合えない」
振り絞るように言葉を放った。告白を断ることが、こんなにも勇気のいる行為だったなんて思いもしなかった。断られた紗雪はどんな気持ちなのだろう。
視線を紗雪へと向けた太一は、彼女が見せた表情に驚かずにはいられなかった。紗雪は落ち込むどころか、笑みを見せていたから。
「あなたが私の告白を断ることくらい知ってた。それも含めて、私はあなたに興味があるの」
太一は紗雪の考えていることが理解できなかった。もし自分が紗雪の立場だったら、笑みを見せることは絶対にない。振られたという事実が重くのしかかるはずだ。それにも関わらず、紗雪はどうして笑みを見せているのだろうか。
思考を巡らせている太一に向け、紗雪はゆっくりと口を開いた。
「それなら、付き合ってるふりをするのはどうかしら」
「えっ?」
予想もしていなかった提案に、太一は虚を突かれる。一歩後ずさりをした太一を逃がさないとばかりに、紗雪は太一の方に一歩詰め寄る。
「私と一緒にいるだけでいいの。本当の彼氏になってなんて言わない。暫くの間、彼氏のふりをしてくれれば。私はそれだけでいいの」
さらに距離を詰めてくる紗雪から離れようと後退し続けた太一は、とうとう壁際まで追い詰められる。
「ど、どうしてそんなに彼氏が欲しいんだよ。彼氏のふりなんて誰でもできる。俺じゃなくてもいいはずだろ」
「あなたじゃないといけないの」
紗雪はさらに顔を近づけると、しっかりとした眼差しで太一の瞳を見つめる。鼻と鼻が当たりそうなほど近づいている距離に、太一は思わず唾を飲み込んだ。