bond~そして僕らは二人になった~

 そんなつもりは当然なかった。でも噂は広がっていき、いつしか私は周囲から避けられるようになってしまった。それに加え、私の知らないところで雅樹さんが子供と会っている。二つの問題が、酷く私を苦しめた。
 もう仕事をやめよう。雅樹さんが正しかった。
そう思いかけていた矢先、久美ちゃんのお母さんと二人きりになった時があった。
 その時、たくさんの悪口を言われた。久美ちゃんのお母さんは隠すことなく、私に対しての嫌味をたくさん言ってきた。
雅樹さんが不倫をしているだの、見下していい気になってるんじゃないだの。
 反発すればよかったのかもしれない。そんなこと微塵も思っていないって。
 でも、私は何も言えなかった。実際に雅樹さんが見知らぬ子供と会っていた現場を、私自身見ていたから。
 頭の中がぐちゃぐちゃで、どうすればよいのかわからなくて。そんな時、久美ちゃんのお母さんに言われた。その一言がきっかけだった。
「ボンドなんて、所詮は誰も幸せにしないのよ」
カッとなったのを今も覚えています。私にとって一番言ってほしくない言葉だったから。
 たぶんそれが引き金だった。
気づいた時には私の目の前で、久美ちゃんのお母さんは……。
刑務所に入ってから、暫くは自分がどうしてここにいるのかわからなかった。
私は何もしていない。気づいたら久美ちゃんのお母さんが倒れていただけ。
そうやって自分を守る事だけしか考えられない日々が永遠と続いた。
 でも、そんな駄目な私を助けてくれたのは紗雪だった。
 紗雪が初めて私に会いに来てくれて。紗雪の顔を見た時、ようやく気付くことができた。私自身がとんでもない過ちを犯していたことに。
とめどなく涙が溢れた。でも泣いても現実は何も変わらなくて。紗雪が会う度に無理して笑っている姿を見るたびに、胸が苦しくなってしまって。
 どうして私は生きているのか。次第にそのことについて考えるようになって。
 だから私は少ない時間だったけど、雅樹さんと面会できる時にたくさん会話をした。
 紗雪をどうしたら幸せにしてあげられるのか。
 話を重ねる途中、雅樹さんには私とは別の女性との間に授かった命があることを知った。そして会っていた子供は有香という名前の女の子だということも。普段は上京した時に会っていたけど、どうしても来たいと言った時だけ、足を運んでもらっていたということを。