パート先には、久美ちゃんのお母さんがいました。同じ職場で働く約束とかしてなかったからこそびっくりしたし、知っている人がいたのは嬉しかった。
実際に働くのは楽しかった。息抜きになったし、家にいるだけだと聞けない話をたくさん聞くことができた。
 気を紛らわせるには十分だった。でも、今考えるとそれがいけなかったと思います。
 ある日、久美ちゃんのお母さんから変な話を聞きました。
 雅樹さんが、紗雪ではない子供と二人きりで会っていたという話を。
 当然、私は嘘だと思いました。雅樹さんが浮気をしてるわけがない。その思いが強かったから。だから私は真相を確かめるために、雅樹さんのことを尾行しました。自分の目で確認して、久美ちゃんのお母さんが間違ったことを言っていることを証明するために。
 雅樹さんが東京へ行く日以外の一週間、私は尾行を続けました。結果、雅樹さんが私の知らない子供と二人きりで会うようなことは、一度もありませんでした。
 やっぱり久美ちゃんのお母さんの話は嘘だった。そう確信した矢先でした。
 働き始めて二ヶ月が経ったある日。私は信じたくない光景を見てしまいました。
 雅樹さんが、私の知らない子供と会っている場面を。
 久美ちゃんのお母さんが言っていたことは事実だった。
 たぶんそのことがショックで、私は少しずつおかしくなってしまったんだと思います。そんな私に追い打ちをかけるように、久美ちゃんのお母さんが「また見たよ」と教えてくれました。
 心配して言ってくれているんだとわかっていたつもりです。でも私はその話をふられた時、冷静でいることができませんでした。そして私は、久美ちゃんのお母さんに言ってしまいました。
 うるさいって。
 それから、久美ちゃんのお母さんとの仲は険悪になってしまった。次第に仕事が楽しくなくなっていった。気を紛らわせるためだったのに、いつの間にか別のことで苦しむことになってしまった。
 もう辞めたい。その思いが強くなっていたある日。久美ちゃんのお母さんと、他の人達のひそひそ話を聞いてしまった。
 私が働くのは、周囲を見下したいからだと。お金があるのに働いているのは、私達に対する嫌がらせだと。