「やはり、君のボンドが異常だったからか?」
「……俺もそう思います」 
 ゼロ型という今まで見つかっていないボンドが出た。この情報を何かしら悪用しようとした人がいたのかもしれない。
「だから公開はやめてほしいって言ったんだ」
「先生もボンド反対派ですか?」
「当然だ。ボンドによって、たしかに不倫や離婚と言った問題は減ったかもしれない。でも私は迷惑してるんだ。特に最近は友人からボンド見合いに誘われる日々が続いて。無駄な出費は増えるし、ボンド見合いで結婚する友人も出てきた。正直、頭痛い」
 太一は高野先生の話を笑って聞き流すしかなかった。太一達学生にはわからない、大人の事情があるみたいだ。
「そういえば、月岡。彼女に振られたそうじゃないか」
「どうしてそれを……」
「私の情報網を舐めてもらっては困る。生徒の噂なんてすぐに耳に入る。学校という空間にいる限りな」
 高野先生は太一に笑みをみせる。どんな情報でも持っているという姿勢だ。少し感情的になった太一は、高野先生に噛みつく。
「そういう先生は、彼氏つくんないんですか? もうすぐ三十路――」
 高野先生の素早い腹パンが太一のお腹に入った。太一は前かがみになって、痛みを堪えるようにお腹を押さえる。
「女性の年齢を口にするとは、教育がなっていないようだな。親の顔が見てみたい」
「す、すぐに手を挙げる先生の親の顔も見てみたいですね」
「ほお。言ってくれるじゃないか。君にはあくまで教育の一環として手を出したまでだ」
 あくまで、と再度口にした高野先生はマグカップを手に持つと、コーヒーを口に運んだ。
「まあ、そんなことはどうでもいい。とにかく月岡は自分のボンドを皆に吹聴していない。誰かがデータを盗み出し、生徒に画像データを送ったってことか」
「……はい」
「とりあえず私の方で色々と調べてみる。君は暫く静観しておくように」
「どうしてですか。これは俺の問題です。俺だって――」
 高野先生の鋭い睨みに、太一は途中で言葉に詰まった。
「君が動きたいのはわかる。だけど、今動いても嫌な気分になるだけだ。暫くは君の噂が校内中に広まる。それに耐えてくれ」
 そう言い残した高野先生はマグカップを持って席を立つと、給湯室の方に向かって行った。どうやら話はお開きらしい。
 太一は高野先生の言葉を胸にしまい、職員室を後にした。