「実は俺、ゼロ型になったんだ。それを聞いた後でも、答えは変わらないか?」

 太一の発言に教室中が凍りついた。そんな中、最初に口を開いたのは有香だった。
「ちょ、ちょっと月岡。あんた何言い出してるの? ゼロ型は紗雪で月岡は違うだろ?」
 そうだそうだ、と有香に便乗して皆が声を上げる。その声に太一は首を振って否定した。
「違うんだ、森川。あの日、屋上から落ちた日。本当だったら俺は死んでもおかしくなかったらしい。でも、俺は助けられたんだ。紗雪に……紗雪の血に」
「月岡、それって……」
 困惑している有香に対して、太一は自分の身に起きた変化を告げた。
「紗雪の血を身体に取り入れたからなのかもしれない。俺のボンドはゼロ型になったんだ」
 太一はポケットに入れておいた紙を取り出し、皆に見せつける。その紙にはボンド検査の結果が記されており、太一のボンドがゼロ型だと記されていた。
「で、でも、ボンドは遺伝しないし、輸血をしただけで変わるものじゃないって、星野教授だって言ってたはずだ」
 有香の疑問に皆が首を縦にふる。太一も同様に頷いた。
「確かに。森川の言う通りだと思う」
「そ、それなら」
「だけど、今の俺はゼロ型なんだ。どうしてゼロ型になったのか。今はまだ詳しい理由はわからない。だけどその理由は星野教授が今朝の会見で言ってた通り、これから見つけていくものなんだと思う。だってまだ、ゼロ型については何も明らかになっていないんだから」
 太一の言葉にクラスメイトは一様に口を結んでしまった。
 今までクラスメイトが見てきたゼロ型は、星野教授が仮説を立てて説明した内容とほぼ一致していた。異性の誰とも結ばれない、常に一人でいることを好む人間。それこそがゼロ型だと。
 しかし、太一がゼロ型だとしたら。
 その事実は皆が抱くゼロ型のイメージを崩すのには、十分な威力があった。
 太一は手に持っていた紙を折りたたみ、ポケットにしまう。そして、再度問いただす。
「だから改めて聞きたい。俺のことは嫌いか?」
 その問いの答えを聞くのは、もはや蛇足でしかなかった。