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「着いたぞ、太一」
「ありがとな、手塚」
 手塚に預けていた身体を起こした太一は、自分の力で教室に入っていく。目の前には紗雪と有香がいた。
「つ、月岡……」
 先に声を発したのは、有香だった。太一の顔を見て驚いている。
「お、おはよう」
 有香のことが苦手だった太一は、ぎこちない挨拶をする。
「怪我は……意識不明って聞いてたけど……」
「えっと……今朝、無事に目覚めたんだ。それですぐに学校に行きたくて。手塚に助けてもらいつつ、何とか学校についたって感じ」
 有香の質問に答えつつも、太一の視線は席に座っている紗雪に向いていた。
 学校に、教室に、紗雪がいる。その事実がとても嬉しくて仕方なかった。
「さ、紗雪……おはよう」
 太一は声をかけるも、紗雪は俯いたまま顔を上げてはくれなかった。
「月岡、あんた正気なの?」
「正気って……」
「紗雪は月岡を屋上から突き落としたんだろ?」
「そんなデマ、誰が流したんだ? 俺は自分のせいで屋上から落ちただけだ」
 太一の発言に有香は口を開けていた。信じられない。そう言いたげな顔をしている。
 登校時間を迎えて、教室内に生徒が徐々に増えていく。ほとんどの生徒が太一の姿を見ては「大丈夫か?」など、心配する声をかけてきた。
 太一は周囲を見渡す。生徒がある程度集まったのを確認して、太一は口を開いた。
「みんなに聞きたいことがあるんだ。俺のこと、嫌いな奴いるか?」
突然太一が口にした問いに、皆が一斉に笑い出す。
「何て質問してるんだよ」
「月岡、頭打っておかしくなったんじゃね」
 皆が太一の質問を馬鹿にする。当然だと太一自身も思う。人に好き嫌いを直接聞いて、素直な答えが返ってくるとは思わない。でも、太一は再度皆に聞く。
「俺は本気で聞いてるんだ。どうか答えてほしい」
 その真剣な問いに、皆が一斉に黙り込む。どう応えるべきか戸惑っている様子だ。
 しかし皆が戸惑う中、手塚だけは違った。すっと手を上げた手塚は声を張った。
「嫌いなわけがない」
 親友の一声を皮切りに、皆が徐々に口を開き始める。
「まあ、別に嫌いじゃねえよ」
「だって、嫌う理由がないし」
 ほとんどの生徒が、太一を嫌いではないと言ってくれた。
「それじゃ……」
 太一は深く息を吸ってから、自らに起こった事実を皆に告げた。