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 星野教授が今朝の記者会見で、ゼロ型が初めて見つかったことについて発表した。だからと言って、紗雪の日常に特別な変化はないのかもしれない。
 でもこのまま学校内だけで認知されるよりは、公にした方が良いと紗雪は思った。もしかしたら、今後も自分と同じゼロ型の人が現れるかもしれない。その時の為にも、何かしらの対策を講じるのは良いことだと紗雪は思っている。
いつも通り皆の通学時間より少し早めに学校に着いた紗雪は、教室のドアに手をかけた。
 おそらく今日も夏月がいるはず。ここ最近、ずっと夏月は紗雪よりも早く学校に来ていた。明確な理由はわからない。だけどもし自分が夏月の立場だったら。それを考えれば、自ずと答えは予想できた。
 ドアをスライドさせた紗雪は視界に入った人物を見て、思わず口をポカンと開けた。
 目の前にいたのは、夏月ではなく有香だったから。
「おはよう。紗雪」
 有香の冷めた声を紗雪は無視する。そんな紗雪の態度に有香は舌打ちしながら紗雪に近づくと、わざとらしく鼻で笑った。
「今朝の星野教授の会見、当然見たよね?」
 有香を無視し続ける紗雪は、鞄から文庫本を取り出す。そして栞の挟まれたページを開き、文章に目を通そうとした。その瞬間、有香が紗雪の左腕を掴んでくる。想像以上の力に紗雪は有香へと視線を向けた。
「何? その反抗的な目は。話を無視する紗雪がいけないんだろ」
 有香は手の力を緩めることなく話を続けた。
「星野教授の会見はゼロ型を擁護するような内容だった。これは自分を守るために仕組んだのか?」
 紗雪は掴まれた手を振り払おうとするも、有香は手に力を入れて離さない意志を示す。
「黙ってないで答えろ――」
「違う!」
 間髪入れずに答えた紗雪は、無理矢理掴まれた手を振りほどき、有香を睨みつける。
「そういつも私の気持ちを逆なでるようなことして、有香は何がしたいの?」
「何をしたいって……」
 紗雪は疑問をぶつけただけだった。しかし紗雪の問いは、有香の逆鱗に触れる。
 紗雪の胸ぐらを掴んだ有香は、目を見開いて言い放った。
「紗雪を苦しませたいんだよ」
 教室内に有香の罵声が響き渡る。そのとてつもない圧力から逃げようと、紗雪は思わず顔を背けた。しかし有香が逃げようとする紗雪を逃さないとばかりに、掴んでいた手に力を入れて無理矢理紗雪に前を向かせる。