「駄目だよ。お兄ちゃん。まだ目覚めたばかりなのに……夏姉も何か言って――」
 美帆の言葉を遮るように、夏月は人差し指を美帆の口に当てた。
「太一の好きにさせてあげよう」
 夏月の言葉に、美帆は暫く熟考する素振りを見せてから、ゆっくりと頷いた。
 美帆が持ってきた着替えを着用した太一は、夏月に告げる。
「ありがとう、夏月。後は頼んだ。それと、美帆は学校に行くように」
 そう告げて太一は病室を出て行った。
 暫く沈黙が続いた。先程までいた太一は、屋上から落ちる前と何も変わらなかった。
「本当、何も変わらないんだから」
 すると夏月のスマホが震え、メッセージが届いたことを知らせた。差出人は手塚だった。
 手塚から来た文章を目にした瞬間、ため込んでいたものが一気に溢れ出した。
「な、夏姉?」
 美帆が心配そうに夏月を見つめてくる。
「ごめんね、美帆ちゃん……」
 どうにか感情を制御しようと試みるも、涙は止まらなかった。
 ちゃんと言葉にして伝えることができた。だからこそ心のモヤモヤは無くなっているのに。それなのに、どうして涙が止まらないのか。夏月はその理由がわからなかった。