「ずっと言えなかった。太一は私のことを恋愛対象として見ていないってわかってたから。でも、やっぱり気持ちを伝えないのは駄目なんだって思った。太一が死ぬかもしれないって思った時、私の中で後悔ばかり生まれた。どうして言わなかったんだろう。どうして素直にならなかったんだろうって。だから自分の気持ちを偽るのはやめようと思った。もう後悔なんてしたくないから」
 夏月は太一から身体を離すと、太一の目を見てはっきりと告げる。
「ずっと前から太一のことが好きでした。もし私の気持ちに応えてくれるなら、行かないでほしい。自分の身体を一番に考えてほしい」
 夏月は太一を見つめ続ける。
 本当は視線をそらしたかったのかもしれない。だけどもう逃げないと決めた。
 昔の自分とお別れする。もう、幼馴染の関係は終わり。一歩踏み出して、変わらないと駄目だってわかったから。
「……ありがとう。夏月の気持ち、本当に嬉しい」
 太一は笑顔を見せたけど、直ぐにその笑みは消えた。
「でも、ごめん。他に好きな人がいるんだ」
 太一の言葉を夏月は深く噛みしめた。
 わかっていた。太一ならそう答えることくらい。昔から太一はずっと変わらない。常に変わろうとし続ける姿勢は、今もずっと変わらなかった。
「……うん」
 夏月は頷くと、目尻に溜まっていた涙を拭いた。
「太一に伝えることができて、本当によかった。聞いてくれてありがとう」
 夏月は笑顔を見せる。もっと辛くて悲しい気持ちになるかと思っていた。
 でも、実際は違った。幼馴染という壁を越えて、真実の思いを知ってもらえた。その満足感で心は澄み切っている。
「お兄ちゃん!」
 病室のドアが勢いよく開き、太一の元へ駆け寄ってきたのは美帆だった。美帆は涙を浮かべながら、太一の胸に飛び込んだ。
「ごめん、美帆……夏月が連絡してくれたのか?」
 美帆の頭を撫でながら、太一は夏月に問う。
「うん。そうだよ。太一が森川先生と話している間にね」
 美帆は太一のことをずっと心配していた。夏月の代わりに病院に行くと聞かなかった。でも、美帆に行かせてほしいと頼んだのは夏月自身だった。
「ごめん、美帆。お兄ちゃん、もう行かないと」
「えっ? 行くってどこに」
「学校だよ。今から出れば、間に合うから」
 太一の発言に呆気にとられた美帆は、すぐさま首を横に振った。