◇◇◇◇◇
 病室のドアが開き、森川先生が出てきた。
「ごめんね。待たせちゃったかな」
「いいえ、大丈夫です。それより太一は……」
「大丈夫。星野教授の発表、太一君は納得してくれたよ」
「そうですか」
 もしかしたら、太一は怒るのではないかと思っていた。一歩間違えれば、紗雪を危険に晒す可能性だってあったのだから。
「今から一時間後に、太一君の身体の検査をしようと思ってる。一応、動けるみたいだけど無理はさせたくないからね。夏月ちゃんに太一君の監視をお願いしたい」
「わ、わかりました」
 森川先生は夏月の返事に頷くと、その場を後にした。
 夏月は太一のいる病室のドアを開ける。ベッドの方に視線を向けると、太一がスマホを弄っていた。
「少し時間を置いたら、身体の検査だって。森川先生が言ってたよ」
「……なあ、夏月」
「何?」
「その……お願いがあるんだ」
 太一はスマホを脇に設えてあったテーブルに置くと、夏月に視線を向ける。太一の直ぐ傍まで近づいた夏月は、丸椅子に腰を下ろした。
「お願いって?」
「……俺の代わりに、ここに残ってくれないか」
「代わりって、どういう……まさか!」
「……これから学校に行こうと思ってる。許可を貰えなかったから、抜け出すつも――」
「絶対に駄目!」
 間髪入れずに夏月は太一の提案を否定した。
 太一は一週間も眠っていたのだ。目覚めたばかりの太一を、学校に行かせるわけにはいかない。それに森川先生に監視を頼まれたばかりなのだから。
「ごめん。でも、これだけは譲れないんだ」
 太一は左腕の点滴を自分で外すと、ベッドから足を投げ出した。夏月はそんな太一を静止するように、太一の両肩に手を置いた。
「……紗雪ちゃんが心配なの?」
「……ああ。紗雪と約束したんだ。俺が、俺が紗雪を守るって」
 太一の言葉を聞いた瞬間、夏月は太一を力強く抱きしめていた。
「な、夏月?」
「私……ずっと言ってなかったことがあるの」
 ぎゅっと抱きしめる力を強めた夏月は、太一の耳元に口を近づける。
 そして、今まで言えなかった自分の気持ちを吐露した。
「私、太一のことが好き。幼馴染とか家族とかじゃなくて、一人の男性として太一のことが好きなの」
 言った瞬間、一気に頬が熱くなるのを感じた。夏月は自分の表情を隠すように、太一の肩に顔を埋める。