「紗雪がゼロ型について、公表したいって言い出したんだ」
　ゼロ型の存在を世間に伝える。それがどんな意味を持つか。
　ただでさえ、ゼロ型は多くの人に馬鹿にされてきた。その事実を知っているからこそ、太一はこの発表の持つ意味は、とてつもなく大きなものになると思った。
　もし、従来通りの解釈をされるとしたら。
　ゼロ型は理論上、異性の誰とも結びつくことがないと言われている。つまりそれは、誰とも結婚できないと宣言されること。
　再びテレビに視線を向けると、星野教授がフリップを出した。そこにはボンドのモデルとなった、希ガスについての記載があった。
『ゼロ型のモデルとして扱っている希ガスですが、そもそも希ガスは化学的には非常に不活性であり、化合物を作りにくいと言われていました。ですのでゼロ型もそれにならって、誰とも結びくことがないだろうと論文に記載しています。しかしこれは論文にも記載している通り、あくまで仮説です。今までゼロ型の人間が現れず、検査などできていないからです。ですが、今回実際にゼロ型の人間が見つかりました。そのため、今後はゼロ型とは何か。その存在について研究を進めることができると、私は思っています』
　星野教授の言葉は、ゼロ型の存在を擁護するものだった。
　ゼロ型について今まで言われてきた情報は、あくまで性質を考えた場合の仮説にすぎないと。
『希ガスは条件を変えることによって、化合物を作ることがあります。だからこそ、ゼロ型も条件次第では誰かと結びつく可能性がある。そう私は考えています』
　言い終えた星野教授の会見は、十分もしないうちに終わった。帰ろうとする星野教授に質問をしようと、メディアの人達が質問を投げかけている。
「森川さん……」
「私と星野教授はボンドを知ることで、結ばれる相手と幸せになってもらいたいと思っていた。実際にボンドで結ばれた人達は、高確率で離婚せずに幸せな生活を送っている。しかしゼロ型というボンドだけは、まるで幸せになれない象徴的な存在になってしまった。でも、紗雪が研究に協力してくれると言ってくれた。だから私達はこれからゼロ型とは何か。その存在について、本気で向き合おうと思っている」
　森川先生は太一の両肩に手を置いた。
「それと、太一君にはもう一つだけ知ってもらいたいことがある。これをどう受け入れるかは太一君次第。だけど太一君なら受け入れてくれると私は信じてる。聞いてくれるかな？」
「……はい」
　その後、森川先生から語られた事実は太一の想像を超える内容だった。