目を閉じているはずなのに、視界の中心から微かに光が漏れ始めていた。まるで屋上から落ちた、あの日に見た光景と重なるように。
 太一は決意を固め、閉じていた目をゆっくりと開いた。
 眩しい光景が太一の視界を埋め尽くす。しかしその光が徐々に薄れていき、目の前には微かに黒い天井が映し出された。
 ここは何処だろう。太一は思うように動かない身体を捻り、辺りを見渡す。
 視界に入った窓から微かに光が漏れていた。それでも、その光が太陽の光より弱いことを太一に感じさせる。右手を動かそうと試みた太一は、その痛みに顔を歪めた。右腕をみると、白い包帯が巻かれている。おそらく骨折しているのだと太一は認識した。
 そして先程までの記憶と明らかに結びつかない状況に、太一はもし生きることができた時のことを考えた。その答えが、今の状況と完全に一致する。
 死んでなかった。生きているんだ。
 太一は自分の生存を確かめるように、左手を握ったり開いたりした。
 ふと左側を見ると、ぼやけた視界の先に点滴スタンドが立っているのが見える。目にした瞬間、この場所が病室だと太一は理解した。
 もしかしたら、長い間眠っていたのかもしれない。
 そう思った太一は、どれくらい月日が経ったのか確認しようと身体を起こそうとした。
「た、太一?」
 突然聞こえた自分を呼ぶ声に、太一は反射でビクッと震える。誰かが病室の明かりをつけた。急激な明るさに、太一は思わず目を細める。そして細めた視界に人の姿が映し出された。
「な……つき?」
 声を発した瞬間、目の前にいた夏月は大粒の涙を流した。
「おかえり……太一」
 夏月は涙を拭いながら声を震わせるも、直ぐに枕元にあったナースコールを手に取って太一が目覚めたことを伝えた。
 暫くして、病室に森川先生が走ってきた。
「太一君。よく戻って来てくれた」
 森川先生はそう言うと、薄らと目に涙を浮かべていた。
「すみません。いったい何があったのか……」
 未だに困惑している太一を見て、森川先生は夏月と何か会話を交わしていた。
 森川先生の言葉に頷いた夏月は、太一に笑顔を晒す。
「森川先生から色々と話があるって。私は外で待ってるから。ちゃんと聞くように」
 そう太一に告げた夏月は、病室を後にした。
 夏月が出て行ったのを見計らって、森川先生が口を開く。