「星野って本当にわかりやすいな」
「……うるさいな。言われなくてもわかってるから」
もう逃げないって決めた。夏月は太一が目を覚ましたら、気持ちを伝えたいと思っている。
「そっか。太一を頼んだ」
「……うん」
手塚は手を振りながら、病室を出て行った。
誰も話す人がいなくなり、病室が静寂に包まれる。久しぶりに訪れた静寂が、今の夏月には気持ち悪かった。何か飲んでスッキリしようと思い、夏月は病室を出て突き当りにある自販機まで歩いた。そこで白い缶コーヒーを買った夏月はプルタブを引くと、口をつけながら近くに設えてあるベンチに腰を下ろす。
「苦っ」
直ぐに缶から口を離した夏月は、缶に記載されている成分表示を見た。そこには無糖と記されている。
「騙された……」
缶の色で砂糖入りと判断した夏月は、自分の選択に後悔を覚えた。それでも買ってしまったのだから、最後まで飲もうとちびちびと缶に口をつける。
口内がコーヒー独特の苦みで徐々に埋め尽くされれていく。まるでその苦みは、今夏月が抱いている感情そのもののような気がした。
太一のためを思って、紗雪にもう関わらないでと告げた。でも太一から紗雪を遠ざけることは、本当に正解だったのだろうか。
手塚が見せてくれた太一からのメッセージが、夏月の決意をぐらつかせる。
太一は明らかに紗雪が一人になることを、望んではいなかった。
もしも太一が目覚めた時、紗雪が一人ぼっちだとしたら。今、紗雪が一人になっている理由を作ったかもしれない夏月は、好きな人の望みを踏みにじる行為をしたことになる。
それでも夏月は紗雪のことが許せなかった。ずっと太一を苦しめ、太一に縋り続けようとする紗雪。優しさに付け込む紗雪が悪魔のように思えた。だからこそ、紗雪に正面から向かっていった。下した決断は、決して間違っていないと思っていたから。
だけど。
「……わからないよ、本当に」
人を好きになることが、どうしてこんなにも苦しいのだろうか。好きな気持ちは陽だまりのような暖かさがあると思っていたのに。現実は全く違っていた。
缶コーヒーはいつの間にか空になっていた。途中からコーヒーの苦みなんて一切感じなかったせいで、一気に飲み干していた。
夏月はゆっくりと腰を上げると、空になった缶をゴミ箱に捨てる。ふと制服のポケットに入れていたスマホが震えた。画面を見ると、父からメッセージが来ている。
画面をタップしてメッセージを開く。そこには、父が明日の朝にボンドについて新たな発表をすると書かれていた。父は二日前からアメリカへ行っていた。そこでボンドに関する何かしらの意見がまとまったのかもしれない。
もし、父の発表がゼロ型を守るものだとしたら。
ふと夏月の脳裏に淡い期待がよぎる。太一が望んでいる未来を作れるかもしれない。そう思った夏月は、スマホを制服のポケットにしまい、自分の頬を両手でパチンと叩いて気合を入れた。
過去はやり直せない。だからこそ変えられる可能性がある未来で、今まで何もせずにいた自分を変えればいい。今は自分を信じて行動しよう。
新たな気持ちを胸に、夏月は太一のいる病室へと向かった。
「……うるさいな。言われなくてもわかってるから」
もう逃げないって決めた。夏月は太一が目を覚ましたら、気持ちを伝えたいと思っている。
「そっか。太一を頼んだ」
「……うん」
手塚は手を振りながら、病室を出て行った。
誰も話す人がいなくなり、病室が静寂に包まれる。久しぶりに訪れた静寂が、今の夏月には気持ち悪かった。何か飲んでスッキリしようと思い、夏月は病室を出て突き当りにある自販機まで歩いた。そこで白い缶コーヒーを買った夏月はプルタブを引くと、口をつけながら近くに設えてあるベンチに腰を下ろす。
「苦っ」
直ぐに缶から口を離した夏月は、缶に記載されている成分表示を見た。そこには無糖と記されている。
「騙された……」
缶の色で砂糖入りと判断した夏月は、自分の選択に後悔を覚えた。それでも買ってしまったのだから、最後まで飲もうとちびちびと缶に口をつける。
口内がコーヒー独特の苦みで徐々に埋め尽くされれていく。まるでその苦みは、今夏月が抱いている感情そのもののような気がした。
太一のためを思って、紗雪にもう関わらないでと告げた。でも太一から紗雪を遠ざけることは、本当に正解だったのだろうか。
手塚が見せてくれた太一からのメッセージが、夏月の決意をぐらつかせる。
太一は明らかに紗雪が一人になることを、望んではいなかった。
もしも太一が目覚めた時、紗雪が一人ぼっちだとしたら。今、紗雪が一人になっている理由を作ったかもしれない夏月は、好きな人の望みを踏みにじる行為をしたことになる。
それでも夏月は紗雪のことが許せなかった。ずっと太一を苦しめ、太一に縋り続けようとする紗雪。優しさに付け込む紗雪が悪魔のように思えた。だからこそ、紗雪に正面から向かっていった。下した決断は、決して間違っていないと思っていたから。
だけど。
「……わからないよ、本当に」
人を好きになることが、どうしてこんなにも苦しいのだろうか。好きな気持ちは陽だまりのような暖かさがあると思っていたのに。現実は全く違っていた。
缶コーヒーはいつの間にか空になっていた。途中からコーヒーの苦みなんて一切感じなかったせいで、一気に飲み干していた。
夏月はゆっくりと腰を上げると、空になった缶をゴミ箱に捨てる。ふと制服のポケットに入れていたスマホが震えた。画面を見ると、父からメッセージが来ている。
画面をタップしてメッセージを開く。そこには、父が明日の朝にボンドについて新たな発表をすると書かれていた。父は二日前からアメリカへ行っていた。そこでボンドに関する何かしらの意見がまとまったのかもしれない。
もし、父の発表がゼロ型を守るものだとしたら。
ふと夏月の脳裏に淡い期待がよぎる。太一が望んでいる未来を作れるかもしれない。そう思った夏月は、スマホを制服のポケットにしまい、自分の頬を両手でパチンと叩いて気合を入れた。
過去はやり直せない。だからこそ変えられる可能性がある未来で、今まで何もせずにいた自分を変えればいい。今は自分を信じて行動しよう。
新たな気持ちを胸に、夏月は太一のいる病室へと向かった。