「これ以上、手がないから他の型と結ばれない。その上、周期も同じ。だから不倫もしないベストカップルって言われるの」
「それじゃ、ゼロ型は手が一本もないってことだよな」
 手塚の問いに、夏月は頷く。
「ゼロ型は〇―〇。手塚の言う通り、手は一本もない」
 だから誰とも結ばれない型だと言われている。でも、これは今までテレビでも散々扱われてきたこと。手塚も既に知っていることだったみたいで、そこまで驚いた表情をしていなかった。
「ごめん、本当に初歩的なことしか知らなくて」
 夏月は手塚に頭を下げる。何も力になれていないことが少し悔しかった。
「いや、確認できただけでもよかった。おかげで閃いたこともあるし」
「閃いたこと?」
 小首を傾げる夏月に手塚は笑みを見せた。
「つまりゼロ型でもくっつけるってことを証明すれば、森川さんを守れるってことだよな?」
「それはそうだけど……」
「だったら、俺が森川さんと付き合えばいいんだって」
「そ、それは駄目だよ!」
 つい声が大きくなってしまい、夏月は思わず口に手を当てた。
「手塚は紗雪ちゃんのことが好きなの?」
「んー嫌いではないよ。それに付き合わないとわからないことってあると思うし。何より、太一の頼みを叶えてやることができるだろ?」
 夏月は首を振って、手塚の考えを否定する。
「違うって。そんなの太一が望んでいる答えじゃないって。もし手塚が本気で好きじゃないとしたら、今手塚がやろうとしてることは、太一と紗雪ちゃんがやってきたことと同じじゃん」
「……確かにそうだな」
 手塚は再び思考の海へと飛び込んでいく。夏月も手塚同様、考えを巡らせる。
 いったいどうすれば紗雪を守れるのか。
 ふと目の前で寝ている太一に夏月は視線を移す。太一には名案が浮かんでいたのか。それとも、ずっと太一が紗雪を守っていくつもりだったのか。
 そう考えると夏月は胸が苦しくなった。
「とりあえず明日、森川さんに探りを入れてみるよ。何かわかるかもしれないし」
「……うん」
 手塚は椅子から腰を上げると、大きく両手を上げて背筋を伸ばした。
「そうだ、星野に言いたいことがもう一つあった」
「何?」
「太一が目覚めたら、ちゃんと自分の気持ちを伝えろよ。好きなんだろ?」
 夏月はきょとんとした目を手塚に向ける。そして言われたことの意味を理解した夏月の頬は、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。