やはり太一は、紗雪を守るために行動していたんだと。
 そして最後には、太一が一番伝えたいことが書いてあった。
『紗雪が一人でいるのは、ボンドが理由じゃない。もしクラスの連中がボンドで紗雪をイジメることがあったら、手塚が紗雪を守ってくれ。頼む』
 全てを読み終えた紗雪は、手塚にスマホを渡した。
「本当に太一はお人好しだよな」
 手塚の声に夏月は何度も頷く。太一は優しすぎる。それはずっと思っていたことだ。
「太一とは長い付き合いだし、力になりたいと思ってるんだ。でも、俺には知らないことが多すぎる。特にボンドについて」
「だから私に聞いたら、何かわかるかもしれないと思ったってこと?」
「そう。星野はお父さんに何か聞いていないのか」
 手塚の問いに、夏月は首を横に振る。
「私が知ってるのは初歩的なことだけ。そもそも、ボンドに興味なんてなかったから」
「それでもいい。初歩的なことでも、少しはきっかけになるかもしれない」
 手塚がグイグイくるので、夏月は自分の知っていることを伝えようと思った。
「それじゃ、ボンドの理論について教えるね。手塚のボンドは何?」
「……水素型」
「それじゃ、水素型と酸素型を例にして話すね。手塚が水素型で私が酸素型」
 そう告げた夏月は、手塚に片手を伸ばすよう指示を出した。
「まずは水素型。水素型は1―1って示されるの。この最初の数字は周期表でいう周期の数字。これは大丈夫?」
「おう。化学の授業でならったから」
「それじゃ、後の数字について。ボンドは後の数字の方が大きな意味を持っているの。後の数字は、簡単に言えば手の数。水素型は手の数が一本。そして酸素型は2―2だから手の数が二本になる。水素型と酸素型は手を繋ぐことができる」
 伸ばされた手塚の手を取った夏月は、話を続ける。
「水素型は手が一本しかないでしょ。だからこれ以上誰とも結ばれない。だけど酸素型はもう一本手がある」
 夏月は手塚と繋いでいない方の手をちらつかせる。
「なるほどな。酸素型は他の相手とも繋がることができると」
「そう。だから酸素型は不倫する可能性があると言われているの」
 手塚の手を離し、夏月は話を続ける。
「ボンドでベストカップルって言われているのは、最初と最後の数字が男女共に同じ組み合わせである型。例を上げれば、共に2―1である塩素型とナトリウム型」
 再度手塚の手をしっかりと握る。