自分自身の意志の弱さに、夏月は握り拳を作ると太股を強く殴る。
 そんな夏月の行動を黙って見届けた手塚が、ゆっくりと口を開く。
「今日はさ、星野に相談したいことがあって。だからここに来たんだ」
 太一もいるからと言った手塚は、壁際に置いてあった丸椅子を夏月の横に持ってきて腰を下ろす。
「話って?」
「森川さんについてと、ボンドについて」
 そう告げた手塚は制服の内ポケットからスマホを取り出すと、夏月に画面を見せてきた。
 画面にはメッセージが表示されていた。その差出人が目に入った瞬間、夏月は手塚からスマホを奪い取っていた。
「何これ……」
 差出人は太一だった。直ぐに夏月は受信した日付と時間を確認する。ちょうど一週間前。太一が屋上から落ちた日のお昼だった。
 夏月は表示された件名に視線を移す。そこには『俺に何かあったら読んでほしい』と書かれていた。
「最初は太一のおふざけかと思った。だからメールを無視してたんだけど……太一が屋上から落ちたって学校で聞いて、メッセージを開かないといけなくなった」
 手塚は画面をタップして本文を表示させた。画面右端に表示されたスクロールバーが、画面におさまりきらないほどの文章量があることを夏月に知らせる。夏月は表示された文章に目を向けた。
 最初に書かれていたのは、紗雪の家庭環境についてだった。
 知らない方が幸せなこともある。読み進めていくうちに、その思いが一段と強くなっていく。紗雪の秘められた過去を知るたびに胸が苦しくなった。
 これ以上読みたくない。そう思いつつも、太一が伝えたいことが書いてあると思うと、無理をしてでも読まないといけないと夏月は思った。
 そしてとある文章に、夏月は思わず声を上げた。
「ちょっと……有香と紗雪ちゃんが姉妹って……」
 画面には腹違いの姉妹とはっきりと書かれていた。
「そうみたいだな。森川さんのお父さんが不倫したらしい」
 手塚はそう告げると、夏月にさらに先を読むよう促した。
 次に書かれていたのは、太一と紗雪の関係について。二人は付き合っているふりをしていたこと。ボンドを否定するために、ゼロ型を否定するために太一が利用されたこと。太一を利用したのは、紗雪よりもゼロ型を否定する説得力があったから。
 内容を把握した夏月は、ずっと抱いていた違和感の正体にようやくたどり着いた。そして夏月は確信する。