そもそも紗雪には友達がほとんどいなかったと夏月は認識している。学校で友達と話している姿を一度も見たことがなかったし、常に一人でいる孤高の存在。それこそが紗雪だと思っていたから。それに紗雪は何もしなくても、常に注目を浴びていた。見るものを虜にする容姿に加え、全国トップクラスの頭脳を持っていたから。
 だからこそ紗雪が一人でいることは、ある意味当たり前のことだという認識が皆の中にあったんだと思う。
 しかし紗雪がゼロ型と皆に知られてからは、一人でいることの意味が大きく変わった。
 頭が良いとか容姿が良いとかではなく、父が見つけたゼロ型の性質に紗雪は当てはまる存在だった。正真正銘のゼロ型。誰とも話そうとしないのは、ゼロ型だから。
 実際に今の紗雪はずっと一人で学校生活を送っている。夏月から見ても、紗雪本人が一人になることを望んでいるように見えた。
 だから紗雪が一人でいることは、別に気にすることではないはず。
 そう思っているはずなのに、紗雪を見ていると何故だか胸が痛くなる。
 もしも紗雪が太一以外に頼る人がいないのだとしたら。夏月が紗雪に言ったことは、あまりにも酷なことだったのではないか。
「……これで良かったんだよね」
 夏月は太一の左手を握りしめる。
 紗雪は太一に罪を着せて傷つけた。太一がこれ以上傷ついてほしくないからこそ、夏月は紗雪を太一から遠ざけた。
 だから紗雪に言ったことは間違っていないはず。
「星野、来てたんだ」
 夏月は咄嗟に声のした方へと振り向く。ドア付近に立っていたのは手塚だった。
「手塚……」
 手を上げながら、手塚は夏月の方へと近づいてくる。
「今まで来なかったのに、どういう風の吹き回し?」
 この一週間、一度も病室を訪れなかった太一の親友に、夏月は強い口調で問いただす。
「いや、太一と二人きりの時間を邪魔するのは悪いかなって」
「えっ」
 手塚の返答に、夏月は思わず虚をつかれた。動揺する夏月を見るなり、手塚は更に追い打ちをかける言葉を放つ。
「だって星野、太一のこと好きだろ?」
 好きという明確な言葉を言われ、夏月は頬を赤くした。
「べ、別に……太一は家族同然だし、何よりお――」
 続けて言おうと思っていた言葉を、夏月は何とか飲み込む。
 また逃げようとした。変わろうと決めたのに、またあの言葉に縋ろうとしてしまった。