論文発表の時に、星野教授が言っていた。誰かと一緒でないと生きることができないからこそ、人は異性との交わりを求める。その結びつきの強さを示すボンドは、誰もが値を持っている可能性が高いはずだと。しかし太一は人類で初めて値を持たないゼロ型だと判定された。それはつまり、太一が異性と結ばれない人間と烙印を押されたようなもので。それを体現するかのように、太一は早速柊に振られた。ゼロ型の効力は絶大だった。
 教室に戻った太一は、妹に作ってもらった特製のお弁当を少しだけ食べた後、癒えぬ傷を背負ったまま午後の授業を受けた。当然のように頭には何一つ入ってこない。先生の話す言葉が脳内を素通りしていく。まるで宇宙空間に無防備で放り出された気分のまま、時間だけが過ぎていった。
「おい、月岡」
 高野先生に呼びかけられた太一は、ようやく我を取り戻す。気づけば授業は既に終わっており、帰りのホームルーム前になっていた。
「……何ですか?」
「放課後、職員室に来い。少し話がある」
 高野先生は皆に席に着くよう命じ、帰りのホームルームを始める。
「今日は一つだけだ。先週伝えたボンドについてだが、生徒の誰かがゼロ型という、変な噂が流れている。まだ事実関係もはっきりしていないのに、こういった噂が広がるのは感心しないな。前にも言ったが、堀風高校はボンド検査を行う最初の高校に選ばれた。初めてのことなので、こうして特例で皆に結果を伝えているが、本来は知ることができない情報なんだ。だからくれぐれも口外しないようにしてほしい。以上、日直」
 先生の言葉を皮切りに、帰りのホームルームは終わった。クラスメイトが席を立ち、次々と教室を後にする。部活動に向かう人、家に帰る人、教室で友人と会話をする人。三者三様それぞれの放課後ライフを過ごす。喧騒に満ちていた教室内も、いつの間にか太一を含めて数人しか残っていなかった。
 いつも一緒に帰っている手塚は、用事があると言って先に帰った。夏月の姿も見当たらない。急に一人だということを、太一は強く意識してしまった。
 ゼロ型の人間は、異性の誰とも結びつくことができない。
 ボンドが太一の脳裏をよぎる。そして太一はふと思ってしまう。
 今一人なのも、自分がゼロ型の人間だから。これから一人の時間が増えるのではないか。