先生の曖昧な回答に、生徒達が一斉にざわついた。それでも先生はまるで生徒達のざわつきをわかっていたかのように、落ち着いた口調で話しを続ける。
「それと昨日もお伝えしましたが、屋上の出入りは禁止です。くれぐれも屋上には近づかないようにお願いします」
 言い終えた先生は教卓を離れ、真っ直ぐ紗雪の席まで来た。
「森川紗雪さん。ちょっと一緒にいいですか」
「……はい」
 紗雪は素直に先生の指示に従い、席を立つ。
 すると周囲のクラスメイトが、ぼそぼそと呟きだした。
「森川さんが何かしたってこと?」
「月岡君が入院したのと関係あるの?」
「やっぱり森川さんは酷い人だな」
 言われても仕方がないと紗雪も思った。このタイミングで先生が呼び出すということは、自分が何かをしたと大半の人は思うはずだから。
 でも紗雪はクラスメイトの言葉を全て受け入れるつもりだった。実際に原因を作ったのは自分であり、多くの人を巻き込んでしまったのだから。
 ざわつく教室を後にした紗雪は、先生の後ろをついていく。
 どうして先生に呼び出されたのか。その答えは考えなくてもわかった。
 呼び出された理由はただ一つ。紗雪に屋上で起こった出来事について聞くため。高野先生が学校に来ていないのも、そのことが理由なんだと紗雪は思った。
 職員室に入ると、紗雪は応接室に通された。先生に暫く待っていなさいと言われた紗雪は、その場に立ち尽くしていると、直ぐに応接室のドアが開く。先生と一緒に入ってきたのは教頭先生だった。教頭先生に座るように促された紗雪は、頭を下げてからゆっくりとソファに腰を下ろす。紗雪が座ったのを見た先生達も、机を挟んだ向かい側に腰を下ろすと、紗雪への質問が始まった。
 内容は紗雪の予想していた通り、屋上での出来事についてだった。紗雪自身もう何も隠す必要もなかったので、ありのままあったことを先生達へ話す。
 そして紗雪が屋上での出来事を全て伝え終えると、先生達が紗雪に聞こえない声でひそひそと耳打ちを始めた。先生の呟きに、教頭先生がゆっくりと頷いている。その間、教頭先生が首を横に振ることは一度もなかった。
 二人の話し合いが終わり姿勢を正した教頭先生は、紗雪へと視線を向ける。そしてその重い口をゆっくりと開いた。