夏月の力強い言葉に、紗雪は思わず顔を上げる。既に夏月は紗雪の目の前に立っていた。
「太一が優しいからって、その優しさに縋って。私、全部知ってるんだから。紗雪ちゃんを助けようとして、太一が屋上から落ちたこと」
声を震わせた夏月は、さらに紗雪へと詰め寄る。
「太一に助けてもらったんだよね? なのにどうして太一が集中治療室にいた時、紗雪ちゃんは病院にいなかったの?」
夏月の目から涙が零れ落ちる。その涙を見た紗雪は、咄嗟に反論の声を上げることができなかった。
「紗雪ちゃんは、太一の優しさを踏みにじったんだよ。救ってもらったのに、太一が大変な時に……ねえ、どうして太一が屋上から落ちなきゃいけなかったの? どうして太一が病院にいて、逃げた紗雪ちゃんがここにいるの?」
夏月の問いに、紗雪は何も答えられなかった。
本当なら今学校にいるのは、紗雪ではなく太一のはずだった。でもその未来を変えたのは、紛れもなく紗雪自身。紗雪が太一を呼び出したせいで、生きるべき人間が今も病院で目を閉じたまま眠っている。
「ごめん……なさい」
震えながらも、紗雪は何とか声を絞り出す。今はただ、謝罪の言葉しか出てこなかった。
目の前の視界がぼやけ始める。でも、以前のように気分が悪くなることはなかった。目からとめどなく涙が溢れ出す。それこそがぼやけた視界の正体だったから。
苦しいのは太一であって自分ではない。そう思っているはずなのに、紗雪は目から溢れる涙を止めることができなかった。
「……もう太一には関わらないで」
夏月はそう告げると自分の席へと戻っていく。それと同時に教室のドアが開いた。クラスメイトが次々と教室に入ってくる。登校時間に差し掛かり、先程までの静寂が嘘のように、廊下も教室も生徒たちの喧騒で溢れ始める。
暫くして有香が登校してきた。有香は紗雪を見つけるも、特に何かする素振りはみられなかった。
「席に着いてください」
聞き慣れない声に、紗雪はふと顔を上げた。目の前には高野先生ではなく、副担任の先生が立っている。
「先生。今日も高野先生はお休みですか?」
先生は有香の問いに頷いてから、口を開いた。
「皆さんにお知らせがあります。高野先生は、暫く学校を休むことになりました」
「どうしてですか?」
「一身上の都合です」
「太一が優しいからって、その優しさに縋って。私、全部知ってるんだから。紗雪ちゃんを助けようとして、太一が屋上から落ちたこと」
声を震わせた夏月は、さらに紗雪へと詰め寄る。
「太一に助けてもらったんだよね? なのにどうして太一が集中治療室にいた時、紗雪ちゃんは病院にいなかったの?」
夏月の目から涙が零れ落ちる。その涙を見た紗雪は、咄嗟に反論の声を上げることができなかった。
「紗雪ちゃんは、太一の優しさを踏みにじったんだよ。救ってもらったのに、太一が大変な時に……ねえ、どうして太一が屋上から落ちなきゃいけなかったの? どうして太一が病院にいて、逃げた紗雪ちゃんがここにいるの?」
夏月の問いに、紗雪は何も答えられなかった。
本当なら今学校にいるのは、紗雪ではなく太一のはずだった。でもその未来を変えたのは、紛れもなく紗雪自身。紗雪が太一を呼び出したせいで、生きるべき人間が今も病院で目を閉じたまま眠っている。
「ごめん……なさい」
震えながらも、紗雪は何とか声を絞り出す。今はただ、謝罪の言葉しか出てこなかった。
目の前の視界がぼやけ始める。でも、以前のように気分が悪くなることはなかった。目からとめどなく涙が溢れ出す。それこそがぼやけた視界の正体だったから。
苦しいのは太一であって自分ではない。そう思っているはずなのに、紗雪は目から溢れる涙を止めることができなかった。
「……もう太一には関わらないで」
夏月はそう告げると自分の席へと戻っていく。それと同時に教室のドアが開いた。クラスメイトが次々と教室に入ってくる。登校時間に差し掛かり、先程までの静寂が嘘のように、廊下も教室も生徒たちの喧騒で溢れ始める。
暫くして有香が登校してきた。有香は紗雪を見つけるも、特に何かする素振りはみられなかった。
「席に着いてください」
聞き慣れない声に、紗雪はふと顔を上げた。目の前には高野先生ではなく、副担任の先生が立っている。
「先生。今日も高野先生はお休みですか?」
先生は有香の問いに頷いてから、口を開いた。
「皆さんにお知らせがあります。高野先生は、暫く学校を休むことになりました」
「どうしてですか?」
「一身上の都合です」