「でも、ボンドは関係ないんだろ?」
「……そうだ。別に俺がゼロ型だとしても、何の問題もないはずだ」
 手塚の問いに思わず太一は虚勢を張った。実際は不安で仕方がなかったのにも関わらず。
 ボンドなんて自分には関係ない。
 太一はそう思っているが、周囲の人がそう思ってくれるとは限らない。以前手塚に言われたことが、太一の脳裏にこびりついていた。
 そんな太一の不安は、現実のものとなる。
 お昼休み。柊から屋上に来てほしいとメッセージが入り、太一は屋上に向かった。そこで柊から衝撃的な一言を言われた。
「私達、別れよう」
 突然の提案に、当然太一は納得できなかった。
「どうして……」
「だって月岡君、ゼロ型なんだよね?」
 柊の言葉は太一の胸を深く抉った。
 柊は何も話さない太一を見て、話を続ける。
「今日、学校中で月岡君のことが話題になってて。私も色んな人に月岡君のことを聞かれたんだ。正直最初はボンドなんてどうでもいいと思ってたんだけど、友達に色々と言われて」
 柊は俯いたまま太一から目をそらす。太一はそんな柊を見ていることしかできなかった。
「それに今は部活に集中したいの。月岡君は私のことを支えてくれるって言ってくれた。だから……わかってくれるよね?」
 柊の言葉に太一は頷くしかなかった。自分のせいで、柊の活動を妨げるわけにはいかない。柊には自分の夢を叶えてほしい。そのために別れることが最良の手段なら。
「……わかった」
 自然と太一の口から言葉が出た。本当は言いたくなかった言葉が漏れていた。
「ありがとう……ごめんね」
 そう言い残し、柊は足早に屋上を後にした。
 あまりにも呆気ない終わり方。付き合い始めてからわずか四日。特に彼氏彼女らしいこともせずに終わってしまった。これでは意味がない。これじゃ今までと何も変わらない。
 だけど、太一にはどうすることもできなかった。
 どうしてゼロ型なんだろう。太一は自らの運命を呪いたくなった。
 ゼロ型。化学で言えば「()ガス」のような存在だと言われている。
 人は誰かと一緒にいないと、生きられない。