「こちら塩沢。対象を確認したわ」

『了解。状況は?』

「綺麗なものよ。大きなダイヤモンド」

『回収班が間もなく到着する筈だ。塩沢は――』

「その話だけど――あの子、ちゃんと焼いてあげたいの。世界には悪いけど、研究なんかさせてあげないわ。成分分析だけはさせてあげる。でも、それでダイヤだって――炭素だってことが分かり次第、あの子は火葬にするわ」

『――初めは色々と言っていたお前だったのにな。それ程、対象との日々は良いもんだったってか?』

「汐里よ。気安く物扱いしないで」

『そいつは失敬、お母さん。それで、上にはどう説明するんだ?』

「アタシの首一つで十分よ。価値のあるものなんでしょう? 宝石病の子と過ごした、貴重なサンプルですもの」

『そんな言い方……俺は別に構わんが、それじゃあ――』

「構わん、好きにしろ。首も飛ばんでいい」

『先生…⁉』

「……珍しいですね、こんな場所まで足を運ぶなんて」

「なに、仕事の為なら手段を択ばんって評判だったお前が、難病を難病じゃなくする足掛かりになるならって事務的だったお前が、どんな顔して喋ってるのか、気になってな」

「――余計なお世話です」

「あぁ、余計な世話だった。一端の人、いや“親”って顔つきだ」

『先生は人格者ですね。病気じゃない人まで、たった今救われましたよ』

「馬鹿言え。それより、上には俺の方から話をつける。だからお前たちももう帰っていいぞ」

『先生がそう言うなら……全職員に告ぐ、対象――っと、陸上汐里は、回収せず保護だけしろ。繰り返す。回収はせず――』





「心臓移植――レシピエントに移るのは、精々記憶くらいのものだと思っていたが。よもや人格そのものが入り込むとは。これはある意味、いい結果だ。礼を言うよ」

「先生?」

「あぁ、今行くよ」

 黒く長いコートが翻る。



「孫を救ってくれて、ありがとう――礼を言うよ、仲村琢磨くん。身内贔屓(びいき)だと、大いに責めてくれ」






――完――