「怖い……怖いよ…死ぬのって、こんなに怖いんだ……ちゃんと、話してきたつもりだったのに……お別れ、言ったつもりだったのに…全部全部、納得いくまで頑張ったって、そんなつもりだったのに……怖い、怖いよ…たくまぁ…」

『――そうだな。ちゃんと最後まで……最期まで、ずっと一緒にいるから。向こうで会えたら、そっからもずっと、ずっと一緒にいるから。だから……だから、泣くなよ…』

 隣に居たら。
 もし、内側じゃなく、隣にいたら。
 こうしてダイレクトに感情を感じられなくとも、隣に居て、身体さえあったなら。
 頭でも撫でて、優しく抱き寄せて、涙の一つでも拭っていたことだろう。

 それが出来ない、この上ない歯痒さ。
 汐里の中にいる特別よりも、隣に立つ当たり前が欲しいと、初めて願った。

「もっと話したかった……もっと色んなとこ行きたかった……もっともっと、琢磨と一緒にも居たかった…」

『それは俺だって同じだ。同じなんだ』

 同じだ。
 だって。これほどまでに――

『誰かをちゃんと好きになったの、お前くらいだから……離れるのも死ぬのも、全部全部、俺だって怖い……怖いよ』

「うぅ……たくまぁ…」

 パキ、パキと音を立てる身体。
 膝を抱き寄せて、顔を埋めて。

「いかないで……一緒にいてよ……好きなら、ちゃんと傍にいてよ…」

『あぁ、いる、いるよ……ここに、ちゃんといる…!』

 抱き締めたくても、出来ない。
 ただ眺めて、内側から声を掛けるだけ。
 それだけしか、今の琢磨には出来ない。

 もう、目も視えていないのかも知れない。
もう何分か前からずっと、視線は定まっていなかった。

 ギュッと抱き寄せた膝――それを支える腕も、もう動いていない。
 その証拠だとでも言わんばかりに、動かなくなったところから、順に結晶化していっている。

「たくま……たくまぁ…!」

 最後に残った口元も、

「私だって…! 私だって、あんたに負けないくらい、だいす――」

 響かぬ声を置き去りにして、宝石へと成り果てた。