泣き止んで暫く。

 今更な痴態に悶絶する汐里である。
 それも少しして収まると、盛大な溜息が零れた。

「多分、琢磨みたいな人なんだろうなー、なんて」

『脈絡なく人の名前を出さないでもらえるか? 何の話だよ』

「夫にするならってやつ。口やかましい癖に優しくて、お節介で。きっと、一緒に暮らしてて幸せな人って、琢磨みたいな男性なんだと思う」

『よくもまぁ恥ずかし気もなく言えるな、そんなこと。ただお生憎様、俺には実体がないからな。一緒に居てやることは出来ん』

「分かってるよ、そんなこと。あーあ、実体ある人だったら良かったのに」

 実体があればどうされていたのか。
 ともあれ。
 目下、考えるべきは先刻の渦中に起きた出来事だ。
 汐里は確かに、ダイヤを吐いていた。

 それも、これまでのものとは比べものにならない大きさのものを。
 加えて、今までにないものまで混ざっているものを。
 ほんの僅かばかりではあるが、赤みがかったそれは血液に他ならない。

 つまりはもう、限界が近いということ。

 いや。日付が確実である以上、その近さは火を見るよりも明らかだ。
 あまりダイヤを吐かないことに胡坐をかいていた。

「ま、なるようにしかならないよ。琢磨の考えることじゃないって」

『心読むな悪魔。それに、勝手に呼び捨てるなよな』

「ダメ? 私は琢磨のこと好きよ?」

『お前な、またそう返しにくいことをこんなタイミングで言うか、普通? はぁ、もう分かったよ、勝手にしてくれ』

「ん、勝手に好きにするね。あぁ、あと勝手ついでに一つだけお願いがあるんだけどさ」

『何だ? 別に俺の身体でもないんだから、許可なんて――』

「妹さん――」
 割って入ってそう零した汐里に、琢磨は言葉を失った。
 妹さん。
 それはつまり、



「琢磨の、心残りだよ」