ふと振り返った瞳に宿っていたのは、確かな決意の色。
けれどもどこか不安定で、脆く崩れ去ってしまいそうなものだ。
しかし、それを決めるのは知音自身だ。
どこまで受け入れられるか、そも微塵でも受け入れる余裕があるのかは分からない。
そう思いながらも、感覚としてしおりが全く動かない様子を確認すると、琢磨は事の顛末を語って聞かせる。
「俺は回りくどい説明や話し方は苦手だからな。まず一発どでかい、結論ってやつから話すぞ。それでも良いか?」
知音は無言で頷いた。
つい先刻まで肘をついていた柵に再び身体を預けて、天を見上げながらに琢磨は口を開く。
些細な夢を叶えようかな、と向かった、珍しい飲み物の売っている自販機。
その横すぐが旧部室棟なのだが。
誰も寄り付かないその旧部室棟の一室にて、ある学生二人が淫らな行為に耽っていた。
それだけであれば、ある種平和なものだ。
どちらともを糾弾して、あるいは全くの無視をして、あるいはここで何をと怒り狂って終いといったものでも構わない。
好きにも出来る。
ただ、それは当事者とその内容にもよる。
「淫らな…?」
「まぁ、何だ。アレだ。所謂セックスみたいなやつだ」
「――――なるほど……それが、会長と美希ってわけね…」
琢磨は瞳を閉じた。
知音は早々に整理が付かない様子で、頭を抱えて固まった。
それは誰かかただ密会をしているものであるかも知れないし、キスまでしているかも知れないし、此度のように行為を楽しんでいるかも知れない。
しかし。
重要なのは、内容の程度ではなく、その片方が茶臼山であるという事実だ。
茶臼山の言葉通りなら、本来あの場にはいない筈なのだ。
居たとて、何を置いても先ずは汐里に一つ詫びを入れるべきなのだ。
ふとして漏れ聞こえて来た声が茶臼山のものであると悟った時点で、琢磨は何かしらの予感がしていたのだ。
だから、汐里には帰るぞと一方的に言い放った。
冷たくても何でも、そうしなければいけなかったからだ。
「あの時、瞬間までは俺が身体を借りてたんだよ。出来るだけ遠くへ走って、走って、距離か体力の消費かを達成出来れば、もし入れ替わりが起きたとしても、汐里の速さじゃあすぐには戻れないからな」
「気、遣ってたんだね」
「最悪な未来が見えただけだ。まぁ、現状そうなってしまってる訳だが……入れ替わりのタイミングが悪すぎた。俺がもっと気を付けてれば、こんなことには…」
「自分を責めるのは無しだよ。しおりも嘘は言ってないだろうから、入れ替わりがアトランダムっていうのはそうなんだし。止めようとしてくれただけでも、仲村さんはよくやってくれたと思う」
そう知音は言うが。
あの時、もっと早くに気が付いて、何も言わずに駆け出していたなら。
何を置いてもまずはあの場を離れることだけに専念していれば。
時間を経るほどに、琢磨の中ではその思いが強くなる一方だった。
今になって、とても悔しい。
後悔、とはよく言ったものだ。
「ま、何でも良いけどさ。あんまりあなたが根を詰め過ぎないでね? しおにまで影響したら困るから」
「ああ、それは分かってる。無茶はしないようにするよ。こうして理解者も居る訳だからな」
唯一にして絶対の知音がいるだけ、幾分マシだと思わなければ。
やっていけないような、そんな予感があった。
けれどもどこか不安定で、脆く崩れ去ってしまいそうなものだ。
しかし、それを決めるのは知音自身だ。
どこまで受け入れられるか、そも微塵でも受け入れる余裕があるのかは分からない。
そう思いながらも、感覚としてしおりが全く動かない様子を確認すると、琢磨は事の顛末を語って聞かせる。
「俺は回りくどい説明や話し方は苦手だからな。まず一発どでかい、結論ってやつから話すぞ。それでも良いか?」
知音は無言で頷いた。
つい先刻まで肘をついていた柵に再び身体を預けて、天を見上げながらに琢磨は口を開く。
些細な夢を叶えようかな、と向かった、珍しい飲み物の売っている自販機。
その横すぐが旧部室棟なのだが。
誰も寄り付かないその旧部室棟の一室にて、ある学生二人が淫らな行為に耽っていた。
それだけであれば、ある種平和なものだ。
どちらともを糾弾して、あるいは全くの無視をして、あるいはここで何をと怒り狂って終いといったものでも構わない。
好きにも出来る。
ただ、それは当事者とその内容にもよる。
「淫らな…?」
「まぁ、何だ。アレだ。所謂セックスみたいなやつだ」
「――――なるほど……それが、会長と美希ってわけね…」
琢磨は瞳を閉じた。
知音は早々に整理が付かない様子で、頭を抱えて固まった。
それは誰かかただ密会をしているものであるかも知れないし、キスまでしているかも知れないし、此度のように行為を楽しんでいるかも知れない。
しかし。
重要なのは、内容の程度ではなく、その片方が茶臼山であるという事実だ。
茶臼山の言葉通りなら、本来あの場にはいない筈なのだ。
居たとて、何を置いても先ずは汐里に一つ詫びを入れるべきなのだ。
ふとして漏れ聞こえて来た声が茶臼山のものであると悟った時点で、琢磨は何かしらの予感がしていたのだ。
だから、汐里には帰るぞと一方的に言い放った。
冷たくても何でも、そうしなければいけなかったからだ。
「あの時、瞬間までは俺が身体を借りてたんだよ。出来るだけ遠くへ走って、走って、距離か体力の消費かを達成出来れば、もし入れ替わりが起きたとしても、汐里の速さじゃあすぐには戻れないからな」
「気、遣ってたんだね」
「最悪な未来が見えただけだ。まぁ、現状そうなってしまってる訳だが……入れ替わりのタイミングが悪すぎた。俺がもっと気を付けてれば、こんなことには…」
「自分を責めるのは無しだよ。しおりも嘘は言ってないだろうから、入れ替わりがアトランダムっていうのはそうなんだし。止めようとしてくれただけでも、仲村さんはよくやってくれたと思う」
そう知音は言うが。
あの時、もっと早くに気が付いて、何も言わずに駆け出していたなら。
何を置いてもまずはあの場を離れることだけに専念していれば。
時間を経るほどに、琢磨の中ではその思いが強くなる一方だった。
今になって、とても悔しい。
後悔、とはよく言ったものだ。
「ま、何でも良いけどさ。あんまりあなたが根を詰め過ぎないでね? しおにまで影響したら困るから」
「ああ、それは分かってる。無茶はしないようにするよ。こうして理解者も居る訳だからな」
唯一にして絶対の知音がいるだけ、幾分マシだと思わなければ。
やっていけないような、そんな予感があった。