少し落ち着くと、気持ちは追い付かないまでも、冷静になることは出来た。
イカ焼きを食べ終えて一息つくと、また琢磨が『大丈夫か?』と優しい言葉をかける。
もう戻れる旨を伝えると、最初は少し疑いがちだったが、やがてすぐに納得して戻ろうかと言ってきたので、ようやく重い腰を浮かした。
ゆっくりと歩いて戻っていると、文芸部の後輩に声をかけられた。挨拶を交わし、またうちの出し物にも来てくださいよと、そんな話をして、再び歩き出すとまた声を掛けられる。
そんなことが三度、四度と続いては、少しは気にもなって来るもので。
『後輩から慕われてんのな』
琢磨が半分笑いながら言った。
「部活では『優しいお姉さん』で通ってるからね」
『うっわ自分で言うのかよ』
「貴方もさっき聞いたでしょ。あの子たちが私のこと『お姉ちゃん先輩』って呼ぶの」
『弄られてるのかと』
「まじトーンで言わないの」
少し傷ついた。
これでも少しは人望ある方なんだからね、と怒ってみせると、琢磨は『はいはい』と流してまた黙った。頬を膨らませて抗議するも、その瞬間さっきのことなどすっかり忘れていたことに気が付くと、汐里もそれ以上の言葉は持ってこなかった。
体育館に戻ると、既に演劇は始まっていた。
ゲリラ性のある呼び出しであることは言っていたものの、聊か申し訳なさも拭えない。
急いで取っていた場所に戻っていく。
「ただいま――って、美希もう終わり?」
知音に謝らんと挨拶を交わすと、一番端の席にも人影があるのを見つけた。
「おかえりーしお。向こうも、また新しい予定があるみたいでさ。でも、色々と回れたよ」
「そっか。ちょっと前失礼するよ」
楽しそうに語る美希は、満足げな雰囲気。
良いなぁと思いながらも、二人に断りを入れると、後ろの人にも迷惑が掛からないよう、なるべく屈んで自分の席へ。
ふぅと息を吐いて舞台上に目をやったところで、またスマホが短く震えた。
まさかと思い開けると、差出人はやはり輝典だ。
――《ほんとにごめん。そっちは演劇始まってる頃だっけ?》――
状況確認?
何なのだろうと少し疑問に思えるが、返信しないわけにもいかない。
努めて冷静に、そして落ち込んでいない様を含んで。
――《始まってるよ、凄い迫力。私、演劇部の舞台って観るの初めて!》――
わざとらしさは隠し切れないが、ないよりはマシだろう。
それだけ打って返信ボタンをタップ。再びポケット仕舞いなおした。
文面を打った後でようやくと演劇に集中し始めたのだが、汐里が輝典に言ったことは間違いではなかった。初めて観るものではあったし、迫力は凄まじいものだ。たかだか高校生の演劇だからと観てこなかったのは勿体ない。そも、自分には出来ないことをやっている他人に対してその評価は、失礼極まりないことであったが。
台詞をしっかりと覚えていることは最低限なのだろうが、まずそこから凄い。その上で、収録とは違ってぶっつけ本番の間弱取り、一度限りの抑揚、どれをとっても素直に凄い。
予備知識のないオリジナル作品を見せられているからこそ、そう思えるのだろう。
こんな感覚、美希が誘わなかったら味わえていなかった。
小さく心の中で礼を言って、汐里はまた舞台上に集中した。
イカ焼きを食べ終えて一息つくと、また琢磨が『大丈夫か?』と優しい言葉をかける。
もう戻れる旨を伝えると、最初は少し疑いがちだったが、やがてすぐに納得して戻ろうかと言ってきたので、ようやく重い腰を浮かした。
ゆっくりと歩いて戻っていると、文芸部の後輩に声をかけられた。挨拶を交わし、またうちの出し物にも来てくださいよと、そんな話をして、再び歩き出すとまた声を掛けられる。
そんなことが三度、四度と続いては、少しは気にもなって来るもので。
『後輩から慕われてんのな』
琢磨が半分笑いながら言った。
「部活では『優しいお姉さん』で通ってるからね」
『うっわ自分で言うのかよ』
「貴方もさっき聞いたでしょ。あの子たちが私のこと『お姉ちゃん先輩』って呼ぶの」
『弄られてるのかと』
「まじトーンで言わないの」
少し傷ついた。
これでも少しは人望ある方なんだからね、と怒ってみせると、琢磨は『はいはい』と流してまた黙った。頬を膨らませて抗議するも、その瞬間さっきのことなどすっかり忘れていたことに気が付くと、汐里もそれ以上の言葉は持ってこなかった。
体育館に戻ると、既に演劇は始まっていた。
ゲリラ性のある呼び出しであることは言っていたものの、聊か申し訳なさも拭えない。
急いで取っていた場所に戻っていく。
「ただいま――って、美希もう終わり?」
知音に謝らんと挨拶を交わすと、一番端の席にも人影があるのを見つけた。
「おかえりーしお。向こうも、また新しい予定があるみたいでさ。でも、色々と回れたよ」
「そっか。ちょっと前失礼するよ」
楽しそうに語る美希は、満足げな雰囲気。
良いなぁと思いながらも、二人に断りを入れると、後ろの人にも迷惑が掛からないよう、なるべく屈んで自分の席へ。
ふぅと息を吐いて舞台上に目をやったところで、またスマホが短く震えた。
まさかと思い開けると、差出人はやはり輝典だ。
――《ほんとにごめん。そっちは演劇始まってる頃だっけ?》――
状況確認?
何なのだろうと少し疑問に思えるが、返信しないわけにもいかない。
努めて冷静に、そして落ち込んでいない様を含んで。
――《始まってるよ、凄い迫力。私、演劇部の舞台って観るの初めて!》――
わざとらしさは隠し切れないが、ないよりはマシだろう。
それだけ打って返信ボタンをタップ。再びポケット仕舞いなおした。
文面を打った後でようやくと演劇に集中し始めたのだが、汐里が輝典に言ったことは間違いではなかった。初めて観るものではあったし、迫力は凄まじいものだ。たかだか高校生の演劇だからと観てこなかったのは勿体ない。そも、自分には出来ないことをやっている他人に対してその評価は、失礼極まりないことであったが。
台詞をしっかりと覚えていることは最低限なのだろうが、まずそこから凄い。その上で、収録とは違ってぶっつけ本番の間弱取り、一度限りの抑揚、どれをとっても素直に凄い。
予備知識のないオリジナル作品を見せられているからこそ、そう思えるのだろう。
こんな感覚、美希が誘わなかったら味わえていなかった。
小さく心の中で礼を言って、汐里はまた舞台上に集中した。