言われた琢磨は凍り付き、しかし得物を逃がさんと刺すような鋭い目つきに射止められ、なかなか視線すらも動かすことが出来ない。
 固まる琢磨に、知音はそのまま追随していく。

「貴方、誰?」

「誰って……し、しお――」

「怒っている訳じゃないの。少なくとも本当のしおも居たから、隠し事はよしってって話。代われる?」

 どこまで分かっているのか。
 いつから気付いていたのか。
 本能で隠し事が無意味なことを悟ると、琢磨はどう話したものかと一つ一つ順を追って説明するべく切り出した。

「知音――さん。ここだとあれだから場所を変えたいんだけど……この学校って、屋上には入れるの?」

「普段から鍵は開いてる。垂れ幕の設営も終わってる筈だから、多分今は誰もいない」

「分かった。ごめん、全部話すよ」

「はいはい」

 真剣な眼差しになっていたかと思うと、正直に話すや途端に軽いノリに。
 しかしそれも、汐里に言わせれば知音の良いところなのだとか。
 東館へと移動して階段を上がって、たまにすれ違う同級生の元部員に挨拶を返す知音とともに、やって来たのは広い屋上。知音の言っていた通り誰もおらず、内緒話をするのにはもってこいのロケーションだった。

 端まで歩いて柵に背中を預けると、そのままずるずる下へ下へ、知音は座り込んだ。ふぅと小さく息を吐くと、三角座りに。

 女の子が短いスカートでそうすると、正面に立つ琢磨からは丁度見えてしまう角度になるわけで、咄嗟に視線を逸らすと、

「私がこうすると、しおなら注意するんだよ」と笑って言った。

 言い訳の余地など、もうどこにもないらしい。
 彼女は、今は既に他の誰かであるとしか見ておらず、その為の冷静な分析しかしていない。

 いよいよ観念すると、琢磨はそのまま知音の横へ。同じようにして座り込んで、まずはと自己紹介を始めた。

「仲村琢磨。それが俺の名前だ」

 一つ目の切り出しに対し、知音は「ふぅん」と事も無げに返す。

「信じてもらえるかどうかは別問題として、俺が今から話すこと全て事実だ。この子、陸上もそれは了解している」

「なら良し。話して」

「え、あ、あぁ…」

 知音のゴーサインを以って、琢磨はこれまでの経緯を詳しく、あと自分のことを簡単に話していく。
 今のこれがどういう状況なのか、どうしてこうなったのか、琢磨が何処の誰なのか。