その後時間をかけて、一部の本棚が倒壊したものの……まあなんとか高雅さんの暴走を落ち着かせることに成功した。白馬先生の必死の説得のおかげだ。また数日後には穴を埋める大量の本が運ばれてくるだろう。
私と疲れきった白馬先生はもとのテーブルに着いて、高雅さんは一人離れたカウンターの席で本を読み始めてしまった。
あれが彼なりの精神統一の方法なのだろう。もう二人とも彼の気に触れたくはないので、黙認することにした。この二人で話を進めるしかない。
「ええと、それでこの場で決めておくことって何でしょうか?」
「俺達も図書委員会としてエントリーするわけだが、そこで一番重要な何をするかがまだだろ。出し物の中身を決めないことにはシートも提出できない」
テーブルにグランプリ用の用紙を広げ、白馬先生がぐったりと項垂れる。
あれれ、白馬先生? つかぬことですが、俺達と言うのは誰のことですか?
「出し物ばかりは俺だけじゃ決めかねてな。そこで図書委員会の生き残りであるお前ら二人の意見も聞きたいんだが――」
…………なんか遠回しに逃げ道を塞がれた気がする。
白馬先生に先手を打たれてしまったが、高雅さんのようにグチグチ言ってても仕方ない。いいや、今の内に彼らに貸しでも作っておこう。
こうして彼らと一緒に出し物の案を捻り出すことになったのだけど、私も伊達に毎回赤点を取っていたわけではない。頭を捻れば捻るほど何も案が出てこない。
白馬先生とともに試行錯誤するけれど、途方に暮れる。バカじゃ戦力外だった。
「あ〜っ! これだってもんが浮かばねえ! なあ高雅、お前頭いいんだから、そのキレる頭であっと言わせるもん考えてくれよ」
「嫌だ」
即答だ。まあ案の定だけど。
手詰まりかと思われたけど、ここで白馬先生から奥の手が放たれる。
「そうそう、言い忘れてたがグランプリに優勝すりゃあ、多額の活動費の増額が見込めるって、あの爺さんが言ってたっけなあ」
するとスパーンと本を閉じる音が辺りに響き渡る。こちらに高雅さんが向き直る。
「全くあなたは、教師だというのに情報伝達能力に欠けている。そんなことで今までよく教師が務まったね」
「うるせえな! いろいろ余計だ!」
白馬先生はブツブツと文句を言っていたが、思惑は上手くいったようだ。腕を組みながら私の背後まで近づいた高雅さんが言った。
「それで確か、出し物を何にするかで君達は無駄に時間を浪費していたんだったよね」
いやまあ、率直に言えばそういうことになるんだけど、もう少しオブラートに包むってもんがあるじゃないですか。
「その出し物、指定条件とかはあるの?」
「出し物の中身には、特に指定はねえぜ。爺さん曰く、形に囚われず自由にやれってさ」
「そう、ならいい案がひとつあるよ」
「本当か!?」
白馬先生の期待値が膨れ上がっている。
なんだかんだこういう時に頼りになるのは、やっぱり高雅さんなんだろう。
「ああ、あの老いぼれの公開人体解体ショー…」
……撤回だ。今すぐ撤回だ。
またどこから取り出したチェーンソーが断末魔を奏でて、高雅さんは悪党も慄くほどの笑みを刻んだ。
それ私の背後でやるなよ。卒倒するかと思ったわ。
案の定白馬先生から止められ、高雅さんは再び不貞腐れて自分の巣に帰ってしまった。
あんなやべー人まだいない方がマシだ。
さて期待できる戦力もいなくなり、とうとう手詰まりだ。
このまま出し物の案も浮かばないまま活動停止という最悪の事態まで想定したところで、天の思し召しがかかった。
「では、演劇はいかがでしょうか」