「と、図書委員会顧問ー!?」

 その面食らった反応に、相手が苦笑する。

「元気がいいな。だが、図書室では静かに、な。俺が許しても、あいつがうるさいからな」

 優しくされた注意に、私もすぐさま冷静に返る。大声はここでは厳禁なのだ。いろんな意味で。

「あっ。そんでここの顧問として言わせてもらうが、生憎ここは少しわけあって一般の生徒は立ち入れないんだ。悪いが出直してくれるか?」
 
 ここの顧問であるらしい先生が酷く申し訳なさそうに、丁寧に入室を拒んでくる。
 しかしそうは言っても、こちらにも深い事情というものがあるもので、おずおずと口を開こうとしたけど。

「その、私もここにはちょっと野暮用が……」

「へぇ、そう、僕の講師の件を野暮用扱いね」

 不貞腐れたような声がして、咄嗟に振り返る。しかしもう遅い。時すでにお寿司。

「こ、高雅さぁん……」

「すまなかったね。そっちから頼んできた野暮用に付き合って、君を毎日こんなところまで連れてきて」

「そ、そんなこと……」

 態とらしくそう謝る彼の姿勢が、控えめに恐怖を煽る。
 遠くを仰ぐ高雅さんの目が怖いよう。今日もまたナイフの雨が降ってくるよう。

「おい高雅、探したんだぞ。こんな時に図書室空けてどこほっつき歩いてたんだよ」

 あの高雅さんを相手に掴みかかる勢いで、先生が文句を投げる。

「別に、トイレ」
 
 そう言っては持っていたハンカチを几帳面に畳んで、ポケットに仕舞う。
 あっけらかんと答えた彼に聞いた本人も呆れていた。初対面にも関わらず、この時ばかりは彼と意見が一致しただろう。
 高雅さんも人の子か……。


「いつまでも出入口の前で突っ立っているんじゃないよ。いい加減退くか、さっさと中に入ったら」

 そう言われて、自分がずっとドアの前で棒立ちになっていたことにようやく気づいた。
 さっきからこの人に睨まれていたのはそのせいなのね、と妙に納得して、いい加減その視線が居た堪れないので中に入れてもらうことにした。

 私が退いたことで自身の巣に帰った彼は、この場で困惑する人におもむろに視線を向けた。
 
「……何?」

「いや、何って……あの高雅が、女を自分のテリトリーに入れてやる幻覚が見えたようで……」

「ねぇ、遠回しに喧嘩売ってるの?」

 相手が顧問の先生だというのに、キッと反抗的な目で返す。こいつ無双か。
 その顧問の先生は、彼のご機嫌を窺うように他愛ないスキンシップを取ろうとする。まあ案の定、その人の手を目に見えぬ速さで高雅さんが払い除けてるけど。


「そんで、いい加減俺にも紹介してほしいんだが……」
 
 話が長くなると踏んでか、小脇に抱えた書類の束を一旦はカウンターテーブルに置いて口を開く。
 先生がこちらにちらりと視線を向けるので、どうやら私のことだと察する。

「さぁ、何のこと」
 
 しかし巣籠もりの彼は惚けているのか、本当にわからないのか、単に面倒なのか、顧問の期待に裏切る言葉を惜しみもなく発した。