ひとまず先輩と再会できたことで、心細い涙を引っ込めることができた。そして物騒な物音の正体を知ることもできた。


「先輩、何ですかそれ?」

「唐突に話を変えるんだね。見ての通り、台車に本を積んでいるんだよ」

 そう言われて、まあ確かに見たまんまだなと納得した。緑の台車には、桐嶋高雅の腰ほどの高さに本が敷き詰められている。どれもそこそこ古い本のようだ。

「年に数回の、蔵書の保存状態の調査をしているんだよ。台車の上にあるやつは、もう古くなって読めそうにないからね。代わりに新しい本を追加するんだ」

 その台車を引きながら、呪いをかけるかの如くこの世の叡智が詰まった本の山を睨む私に彼が補足をしてくれた。
 こんなものに、私は躍らされていたというのか……。おのれ、ただの紙の束のくせに……。

 ちなみに蔵書の管理に使う伝票を見せてもらうと、台車に積まれたすべての本の題名《タイトル》と、本の状態の詳細な記録がびっしりと書かれていた。
 そんな伝票が何十枚を超え、一冊の本が出来上がる勢いだ。開いた口が塞がらない。

 
「見ての通り、僕は忙しいから生憎お茶を出すこともしてあげられないよ。そういうことだから、今日のところは潔くお家に帰るんだね」
 
 子供に言い聞かせるような口調で、彼からは追い返されてしまった。そんな追い返され方は非常に納得がいかない。
 十分に不貞腐れた私は、ここですんなりと帰るわけにはいかなくなった。確かに頭は小学生かもしれないけど、ここぞというときはやれることをこの本好き怪人に見せてやらなければ!