しばらく歩いた先にヒマワリが咲いていた。花言葉は「愛慕」、「崇拝」、「あなただけ見つめる」。大輪と小輪でも花言葉があるようで、記憶が正しければ、小輪のヒマワリには「高貴」との花言葉もあったはずだ。七月二十日の誕生花で、その誕生日の友人が、ヒマワリの描かれたものやヒマワリを模した小物を多数持っていたのを鮮明に覚えている。わたしのラッキーフラワーなんだ、と嬉しそうに語っていた。ヒマワリの飾りがついたシャープペンシルを使っていて、授業中にボールペンをいじっているのは誰だと先生が声を荒らげたのもよく覚えている。ラッキーフラワーがアンラッキー運んできたねと直後の休み時間に言えば、彼女はわたしだってばれてないからあれは幸運だよと、得意げに笑った。何気ない会話に満ちた三年間だったが、実に満ち足りた高校生活だったと思う。

 鳥の声や人々の会話、足音などの雑踏に紛れ、「おや」と声が聞こえた。男性のものだった。反射的にそちらを見ると、明るい金髪が眩く輝いていた。デニムを模した淡い青のシャツから覗く白の中心はカメラが飾っており、右肩には黒の箱のようなバッグが掛かっている。茶色と薄緑色の瞳が穏やかに細められる。「やっぱり君か。よく似た人だと思ったら」

 わたしは目を開くとともに深く吸った息を、「ナオさんじゃないですか」と吐いた。

 「びっくりしたあ、なにしてるんですか?」言った直後、自分に対して見ればわかるだろうと思った。

 「たまにはこういうところも楽しいかなと」

 「やっぱり植物、好きなんですね。カメラ得意なんですか?」

 「しばらく前に手を出してみたら、はまっちゃってね」

 「へええ。カメラに詳しい男性、好きですよ」

 「褒めてくれてもなにも返せないよ」とナオさんは困ったように笑う。