食事を終え、ふうと息をついた。暑い外から冷房の利いた室内に入った瞬間のように、あるいは、寒い外から暖房の利いた室内に入った瞬間のように、体の緊張のようなものが解けた気がした。

 失敗したところで辞めるから失敗になる、成功するまで続ければそれは成功になる。松下幸之助は、生前、そんな言葉を発したらしい。おやと思い、調子に乗ってしまいそうだった。今のところ、わたしは一度も失敗はしていないように思えた。そんなわたしに、アインシュタインは、なににも挑戦していないからだと言うのかもしれないが、それは否定しない。事実、わたしは新しいことに挑戦したことはない。それだけでなく、辞めなかったという形でも、わたしは失敗していない。失敗したと感じたときに死にはしなかったのだ。

わたしには目標や、挑戦していることがない。故に挫折の色味を持った失敗はせず、舞台は特定の分野ではなく、人生になる。人生において諦めるとは、死を選ぶことであるとわたしは思っている。何度選択を誤っても生き続け、いつか人生規模で成功と言える決断ができた暁には、わたしの人生は成功したと言える。あの松下幸之助の言葉を、成功は生きることの中にあると解釈した人がどれほどいるかわからないが、わたしはそう解釈して、なんだか気が楽になった。