わたしはココアを飲み、「あの」と声を発した。ソーサーなるものへカップを返したナオさんは、それぞれ琥珀とエメラルドのような双眸で、穏やかにわたしを見る。

 「ナオさんって、植物に詳しいですよね」

 彼はふっと目を細める。「人並みには」多分、と付け加えて、困ったように笑みを作る。

 「ナオさんがわたしを知ってるように、わたしも、もしかしたらナオさんを知ってるかもしれないんです」

 「ほう」と、彼は脚を組み、その上で手を組んだ。

 「……岸根先輩、じゃありませんか?」

 ふふっと笑うと、ナオさんは組んだ手と脚を解いた。「そうかもしれないね」

 「わたしがナオさんを知ったのは、四年前、高校一年生の頃でした。当時、ナオさんは三年生。その頃とは、ナオさんも言うように、確かに印象が違います。髪の毛の色も、左目の色も。なにより、当時よりも優しい印象を受けます。わたしがナオさんを知ったのに、特別なきっかけはありません。普通に学校生活を送っていれば、自然と知ることができたんです。ナオさんは有名だったから」

 ナオさんはティーカップに手を付ける。

 「ナオさんは、高校生の頃、植物部と茶湯部に所属していませんでしたか? わたしの知る岸根奈央さん――岸根先輩は、植物部と茶湯部に所属していて、まるで次元の違う世界から飛び出してきたかのようなその美貌故に、『美しすぎる植物部員』、さらには優秀な成績から、『完璧すぎる』先輩、あるいは男と、当時生徒の間で有名だったんです」

わたしは「岸根先輩ではありませんか?」と、改めて問うた。ナオさんは「嫌な冠をもらったものだよね」と苦笑する。

 「……岸根先輩?」

 「岸根先輩です」と、彼は笑う。「こんなに恥ずかしい瞬間あるかな」と同じように続ける。

 「じゃあ、ナオさんの『ナオ』の漢字は……」

 「奈良の奈に中央の央」女の子みたいで好きじゃないんだと、彼は笑う。