風呂上がり、頭にタオルを被って冷凍庫の扉を開けた。中から増家の持ってきたアイスを取り出し、くっついた二本を分け、一方を冷凍庫へ戻し、扉を閉める。その間に、増家になにか言われた際には必ず、後日に食べたと答えようと決めた。


 縁側に腰を下ろし、チューブを咥えて蚊取り線香にマッチで火を点ける。丸まった枯れ葉を模した蚊取り線香置きのくぼみに、線香を通した棒を乗せる。

 チューブを手に持ち、ブナの樹を眺める。とくとくと鼓動を感じさせる幸福感を、深く呼吸して落ち着ける。美術品、とでも言い表そうか。僕に映るこのブナの樹は、実に美しい。他にもブナの樹はいくらでもあろうが、それらは“このブナ”ではない。他にどれほど同じように見えるものがあろうと、僕にとっては唯一絶対なのだ。他に美しさを感じるブナはないのかと問われた場合には、僕はあると答える。しかし、どれもこのブナを超すことはない。これは、素直に言葉に表すならば――。

 僕は口の中のチューブを噛んだ。「岸根君ってなにが好きなの?」。僕は、木が、樹木が好きだ――。