増家は「熱い熱い」と運んできた皿をダイニングテーブルに置くと、ふうと長く息をついて手をこすった。「我ながら上等な出来だ」と言う声へ、「いい匂い」と返す。「だろ?」と得意げに言っては、増家はキッチンへ戻る。

 主菜のおろしハンバーグ、副菜のにがうりとツナの和え物、主食の白米、汁物にはナスやオクラといった夏野菜の味噌汁が並んだ。手を合わせて箸を持つ。

 「豪勢だね」

 「そうか?」

 「……君も自炊なんてするんだ」

 「おい待てどういう意味だ」と増家は苦笑する。

 「なんとなく、君に自炊する印象がなかったんだよ」

 「そんなことないぜ。なにを隠そう、おれ様は中学時代に『味覚の神』なる称号を手に入れた男だ」

 「ああ、そういえばそんなことも言われてたね」

 「個人的にゃ、犬の嗅覚の如き舌を持つ男、とかがよかったんだが」

 長いよ、と僕は苦笑する。「なんだっけ、給食の隠し味当てるみたいなことやってたんだっけ」

 「違う、アレルギー物質だ」

 「ああ、そうそう。結構な確率で当てるんだからすごいよね」

 「だろう?」と、増家は得意げに笑う。

 そうなんだ、そういえば、知らなかった、忘れてた――。この食事の中の会話で、何年も言わなかった言葉を何度も発した。僕はまた一つ、自分の知らないことに気づき、それを知ることができた。