晩飯食いに行くからな。増家の言葉を頭に残し、呼び鈴の音を警戒していると、ついにそれが耳に届いた。息をついてテレビを消し、ソファから腰を上げる。玄関を開ければ、大きく膨らんだビニール袋を持った増家が「よう」と笑みを見せる。「本当に来やがった」と笑い返せば、彼は「おれは友達との約束は守る男だ」と得意げに笑う。「友達以外との約束も守るんだよ」と苦笑し、僕は「しょうがないから入って」と言って、中へ戻った。「お前んちなんてどれくらいぶりだろうなあ」と言う増家に、「随分久しぶりだね」といい加減に返す。

 「台所借りるぞい」と言う増家へ、「どうぞご自由に」と返し、僕はソファに腰を下ろす。

 キッチンに入った増家は、「ご飯ないじゃんかあ」と悲しげに声を発した。「まだ食べる気なかったし」と返せば、彼は「鍋借りるぞ」と僕の言葉がなかったように言う。「なに作るの?」と僕は問う。「おろしハンバーグだ」と増家は得意げに言う。

 「大丈夫?」

 「どういう意味かは訊かないでおく。大丈夫だ、おれ様は近頃、よく料理をする。故に貴様は、おれ様の華麗なる手さばきを指咥えて見てりゃあいいんだ」

 「おお、嫌な言い方する」

 「安心して図鑑でも読んでおれ」と言う増家に、僕は「もう読まないよ」と返す。「まじか」と返ってきた増家の声には、驚きの色が窺えた。「君の言うことがやっとわかったんだ。いや、君が本当に言いたいこととは少し違うのかもしれないけど。僕なりに、神経質にならない理由を見つけた」

 ほうん、と増家は言う。「まあなによりだ。お気楽にいこうぜ」と、本当に気楽な様子で声を続ける。