灰色の半袖シャツに黒のパンツを合わせ、部屋を出る。リビングへ戻ると、増家は「お待ちしておりましたよ、お坊ちゃま」と、また少年のような笑みを見せた。

 図鑑を抱えて、ただ増家の隣について歩みを進める。「どこへ連れていくつもりだ」と尋ねれば、彼は「外に連れ出したかったんじゃ」と言う。

 「図鑑なら家でも充分に読めるんだけど」

 「そうじゃねえんだって。お前は確かに、まだ知らないことがあるみてえだな」

 「うるさい」

 「だから、おれがそれを教えてやるんだ」

 「今はまだなにも教わってる感じはないけどね」

 「そう言うなよ」と増家は苦笑する。「なにかを取り入れようと、神経活発にしてついてろ」

 「疲れさせたいの?」

 「逆だ」