「この茶碗は普通に洗えばいいのか」と言う増家へ「ああ」と返すと、彼は茶碗を洗ってキッチンを出てきた。

 「じゃあ行くか」と言って伸びをする増家へ、「気を付けて」と返す。「お前もくるんだよ」と言う彼の声は、それが当然であるようだった。図鑑から増家へ視線を移す。「なんで」と返せば、「いいから」と彼は言う。「僕は暇じゃないんだ。何遍言えばわかる」

 「暇じゃないからこそ、息抜きが大事だろって」

 「今はそんな場合じゃないんだ」

 「やばいときほど、肩の力抜いた方が、効率よく物事が進むってもんよ」おれはそれを知ってる、と増家は言う。僕は深く息をついて、図鑑を閉じ、腰を上げた。

 「おれはこれから、お前に新たな知識と経験をやる」

 「はいはい」

 「図鑑持ってでもいいから、ついてこいや」

 「断れるなら断りたいけどね」

 「それはおれがさせん」

 「でしょうから。ついていくとも」

 「それでいい」と満足げに頷く増家へ、「着替えてくる」と告げてリビングを出る。