「茶碗は冷えてないよ」と断って、食器棚から茶碗を取り出す。「茶碗も冷やすのか?」と言う増家へ、「冷たいお茶のときはね」と返す。抹茶を濾し、杓三杯分を茶碗に入れる。冷蔵庫の軟水を少量注ぎ、艶が出るまで茶筅で混ぜる。さらに百ミリリットル程度、感覚でペットボトルの水を加え、泡が立つまで点てる。「手際いいな」と言う増家の声がくすぐったい。首筋もだし、心もまた。「なんでそんな近くで見るかな」と心から呟く。

 「お茶点てられる男ってなんかかっけえじゃん」

 「別に性別関係ない……」

 「なんか、女性のしなやかでしとやかな動きでってのが綺麗だと思ってたから」

 「そう」と返して振り返ると、増家はおおと大きく一歩下がった。僕は「はい」と茶碗を差し出す。「さんきゅ」と彼はそれを受け取った。

 「よくもまああれほど飲んだ翌朝にこんなもの求めるね、その体は」

 「おれ二日酔いって知らないんだ」と、特技を誇る少年のような笑みを見せる。

 「そう。まあ、僕もだけど。起きてすぐちょっと頭痛かったとか言わないし」

 「まじで?」と笑う増家へ、「言わない言わない」と返す。「早く飲んで帰ってくれ」と告げてキッチンを出、ソファに腰掛けて図鑑を開く。

 「うわっは、苦い」と増家は一人で笑う。