翌朝、リビングでは増家がダイニングテーブルに伏せたまま寝ていた。しかし昨晩とはリビングの状態が違う。ダイニングテーブルはすっかり綺麗になり、キッチンで換気扇が回っているためか、酒のにおいも気にならない。

 グラスにペットボトルの天然水を注ぎ、軽い頭痛を落ち着けようと一気に流し込む。グラスを洗ってかごに置き、炊飯器へ目をやる。やっぱりだ、と密かに苦笑する。就寝前、炊飯器を触った記憶がなかったが、炊飯器を触った事実もなかった。冷蔵庫を開けると、納豆のパックが三つ縦に並んでいた。うち一つを取りだし、扉を閉める。

 ボウルに卵を二つ割り入れ、納豆、顆粒和風だし、醤油を加え、適当に混ぜる。フライパンにごま油を垂らし、温めて、普通の玉子焼きの要領で焼いていく。本当なら玉子の中に小ネギも欲しいところだが、ないので致し方ない。

 玉子焼きを皿に盛って、程よく黒くなったバナナを一本、スタンドから取ってキッチンを出る。ダイニングテーブルに皿とバナナを置き、箸と増家からのありがたいプチトマトを取りにキッチンへ戻る。

 ダイニングテーブルにものが揃ったところでダイニングチェアに腰掛け、いただきますと手を合わせる。玉子焼きをかじると、「なんか臭い」と増家は呟いた。「鼻がいいね」と笑い返すと、「うわ納豆臭い」と改めて言う。

 「ところで君、今日は休み?」
 
 「じゃなきゃ飲みになんかこねえべ」

 はあと僕は息をつく。「やっぱり飲みに来たんだ」

 「いや、うどんの材料間違えて二人前買ったのは本当だぜ? でもさあ、どうせ中学時代の友人に久々に会うってなったら、酒の一本や二本くらい持って行くかなって思っちまうだろう」

 「朝からよく喋るね。昨日の大量の酒とつまみはちゃんと消化してくれたんだろうね」

 「下からは昨夜の間に出し尽くしたがな」酒の利尿作用恐るべしだと増家は笑う。

 「なあ」と彼は改まる。「お前、高校の頃茶湯部だったんだよな」

 「……違うって言っていいかな」

 「なんで」という増家に「嫌な予感しかしないんだ」と即座に返す。「裏切ってやる」と笑って、彼は「お茶点てて」柔らかく笑う。僕は大げさにため息をついていやる。「僕は暇じゃないんだ」

 「いいじゃんか。たまには息抜きしようぜ?」

 「僕がお茶を点てて息抜きできるのは君なんだよ」

 「固いこと言うなって。あんまり頭固くしてると記憶力も低下するぞ?」

 「うるさい」

 「点ててくれないと黙らないぞ」

 「なんでだよ」と笑い返して、「本気だよ」と言う増家に息をつく。「わかったよ。朝食済ませたらね」

 「それが朝食かよ」と言う増家へ「本当に黙って」と返す。