閉館を知らせるクラシック音楽を聞いて、駆け込みのようにレンタルの手続きを済ませて自動ドアをくぐった。真冬の十七時は、ちょうど空が沈みかけの太陽に焼かれている頃だ。なにも持っていない割に重たげな自らの影を見ながら帰路に就く。

 家まで数十メートルというところで自転車が横で僕を越えていった。僕の家の前でキイと停車し、その学ランはこちらを振り返った。そばで僕と目を合わせると、彼は「ああ」と声を発す。

 「やっぱり兄ちゃんか」

 彼は僕の手元の袋を一瞥して、視線を戻した。「図書館行ってきたの?」

 「うん」

 「……なんでそんなに頑張るのさ」

 言葉が出てこなかった。なんと返すべきかわからなかった。

 僕は弟の横を通り、玄関の前に立った。鍵を挿して、染みついたままに手首を回す。

 なあ兄ちゃんと言う声を背に聞いて中に入る。声の続きをドアで遮って廊下に上がり、階段を上る。

 なぜ弟の問いに答えられなかったか。簡単なことだ。僕は認めたくなかったのだ。なにを――自分がなにも知らないことを。もしくは、弟になにも知らないことを確信させたくなかったのだ。それはなぜ――簡単なことだ。知らないというのは――