いや、と思うのはすぐ先のことだった。「なおなお、お代わり」と言う増家の声に、「刺すぞ」と言いながら腰を上げる。「痛いのは嫌いだ」と増家は言う。「やるなら優しい毒で麻酔みてえにやってよ」と笑う彼へは、「ふざけんな」と返す。「一人の酔っ払いのために犯罪者にはなりたくないよ」
冷蔵庫には、確かにたんまりとビール缶が入っていた。彼がここを訪れたのが、二人前の食材の消費ではなく、朝までの呑み会が目的であるかのようだ。僕は暇じゃないんだよと改めて腹の中に呟き、缶を手にキッチンを出る。
「ん」と缶を置くダイニングテーブルは、すでに空き缶とつまみのごみが広がりつつある。別段綺麗好きというわけではないが、増家ほど酒の旨さが理解できない僕にとって、この光景は小さな悪夢だ。酒臭い自宅のリビングに、酒臭い酔っ払いが一体。そんな場所にいかだのビーフジャーキーだの袋が、空だったり中身が残っていたりして転がっているのだから、こちらは後のことを考えてため息ばかりで酒のお代わりどころではない。
増家は頬の赤らんだ顔を上げ、頬杖をついた。「お前もさあ、たまにはどっぷり飲んで楽しんだらどうだ?」
「もうふわふわしてるよ」
「気持ちよくなってきた?」
「飲んだ酒じゃなくて嗅いだ酒にね」そしてそれが見せる悪夢に、だ。此奴は十中八九、ここで朝を迎える。せめてタオルケットを掛けてであることを願うばかりだ。
「しかし弱いなあ」名前だけじゃなく全部女の子だったらかわいいんだろうにと言う増家の脛を思いきり蹴る。うわっと声を上げた増家は、こりゃあ弁慶も号泣だと苦笑する。
冷蔵庫には、確かにたんまりとビール缶が入っていた。彼がここを訪れたのが、二人前の食材の消費ではなく、朝までの呑み会が目的であるかのようだ。僕は暇じゃないんだよと改めて腹の中に呟き、缶を手にキッチンを出る。
「ん」と缶を置くダイニングテーブルは、すでに空き缶とつまみのごみが広がりつつある。別段綺麗好きというわけではないが、増家ほど酒の旨さが理解できない僕にとって、この光景は小さな悪夢だ。酒臭い自宅のリビングに、酒臭い酔っ払いが一体。そんな場所にいかだのビーフジャーキーだの袋が、空だったり中身が残っていたりして転がっているのだから、こちらは後のことを考えてため息ばかりで酒のお代わりどころではない。
増家は頬の赤らんだ顔を上げ、頬杖をついた。「お前もさあ、たまにはどっぷり飲んで楽しんだらどうだ?」
「もうふわふわしてるよ」
「気持ちよくなってきた?」
「飲んだ酒じゃなくて嗅いだ酒にね」そしてそれが見せる悪夢に、だ。此奴は十中八九、ここで朝を迎える。せめてタオルケットを掛けてであることを願うばかりだ。
「しかし弱いなあ」名前だけじゃなく全部女の子だったらかわいいんだろうにと言う増家の脛を思いきり蹴る。うわっと声を上げた増家は、こりゃあ弁慶も号泣だと苦笑する。