「ほれ」と差し出された箱から顔を出す一本を引き抜く。「ほれ」と差し出されたジッポライターを受け取り、咥えた棒の先に火を点ける。煙を吐き、ブナを眺める。

 「君といると肺がおかしくなりそうだ」

 「頭もおかしくなるぞ」

 「そうじゃない。いや、それもあるけど。君といると、いやに空気が軽い」

 「感謝されてんだか貶されてんだか……」

 「白でも黒でもなく、灰色くらいがちょうどいいんでしょう?」

 こいつ、と増家は苦笑する。「でもまあ、たまにはそういう空気吸うのも悪くないんじゃないか? 時折森林浴するように」

 「そうだね」

 「お前は常に水ん中にいるみてえだからなあ」

 「赤子みたい?」

 「そういう水じゃねえ。なんかもっと傍から見れば神秘的な感じの水だ」

 「生命の誕生というのも、充分に神秘的だと思うけどね」

 「しっかしお前の感性にはついて行けんな」

 「歓声も上げられないし、なにか言うにしても、そんな言葉も未完成なままって感じ?」

 増家は数秒の沈黙を守り、「お前って本当にわかんねえ」と呟いた。指に挟んでいた煙草を口にやる。僕も真似るように動き、煙を吐く。ともに天を仰ぎ、「今日も暑いな」と言う増家へ、「そうだね」と返す。