一階で玄関が閉まる音を認めたあと、僕は学ランとワイシャツを脱ぎ、白のトレーナーに灰色のパーカーを羽織り、灰色のスウェットに穿き替えて部屋を出た。
施錠のされていないドアをそのまま開け、外から鍵をかけてドアのそばを離れる。
一歩を大きく繰り返しながら、鼓動がいつもより速いのを認めた。だめだだめだと心中に繰り返す。知らなすぎる。僕にはまだ、知らないことがある。
にやりと上がった口角が、霧のような中にはっきりと浮かぶ。
「人生に終わりを求めてはいけないと、その男は言った。欲望も感情も困難も、尽きることはないのだという。」――。
たった今開いた小説の出だしだ。「男」の言う通りだと思った。尽きないのだ、欲望も感情も困難も。当然のように、僕の知らないことも尽きない。
僕はなにも知らない。だからこうして、図書館に知識を求める。いや、本当は図書館でなくてもいいのだ。情報さえ得られればなんでも構わない。紙に刻まれたものでも、携帯電話の画面に浮かぶものでも、イヤホンが耳元で語るものでも、視覚と聴覚に訴えかけるテレビからのものでも。実際、一日のほとんどの時間をなにかに新たな情報と知識を求めている。
施錠のされていないドアをそのまま開け、外から鍵をかけてドアのそばを離れる。
一歩を大きく繰り返しながら、鼓動がいつもより速いのを認めた。だめだだめだと心中に繰り返す。知らなすぎる。僕にはまだ、知らないことがある。
にやりと上がった口角が、霧のような中にはっきりと浮かぶ。
「人生に終わりを求めてはいけないと、その男は言った。欲望も感情も困難も、尽きることはないのだという。」――。
たった今開いた小説の出だしだ。「男」の言う通りだと思った。尽きないのだ、欲望も感情も困難も。当然のように、僕の知らないことも尽きない。
僕はなにも知らない。だからこうして、図書館に知識を求める。いや、本当は図書館でなくてもいいのだ。情報さえ得られればなんでも構わない。紙に刻まれたものでも、携帯電話の画面に浮かぶものでも、イヤホンが耳元で語るものでも、視覚と聴覚に訴えかけるテレビからのものでも。実際、一日のほとんどの時間をなにかに新たな情報と知識を求めている。