次に増家の鳴らす呼び鈴に玄関を開けるのは、あれから一週間後のことだった。右手に本の入った袋を提げ、「よう」と笑みを見せる彼へ、「なんだっけ」と返す。「おいおい」と苦笑する増家を招き入れ、僕は廊下に上がる。彼が靴を脱ぐのを確認し、図書室へ向かう。

 「いやあ、面白かったぜ、借りた本」

 「そう。なによりだ」

 「お前はさ、これ全部把握してんの? これってか、持ってるやつ」

 「まあ。大体は」

 「ええ……。まじで?」

 「自分のものなんだ、把握できないでいてどうする」

 はいはい、と増家はため息のように言う。「どうせプレーヤーの楽曲すら把握してないさ」

 ところでさ、と彼は続ける。「お前、なんかいいことでもあった?」

 僕は図書室のドアを開け、彼を振り返る。「そう見える?」

 「伊達に手前に心理戦で負け続けてねえぞ」

 「そう。いいこと、というか……まあ、小さな刺激はあったよ」

 「へえ」と言って、増家は図書室に入る。「別段嬉しいことがあったわけでもない人間をそう見てしまうくらいだから、君は僕にさえ負けるんだ」と言えば、彼は「この野郎ぶっ倒すぞ」と笑った。「今に見てろ」と言って、「今回という今回は圧勝してやっかんよ」と続ける。「楽しみにしてるよ」と返し、僕は「なに飲むの?」と問う。「カフェのラテだ、甘々の」と、彼はなにか企んでいるように笑う。そのいかにも悪そうな笑みになにも感じないのは、彼が黒い部分を持っていない故か、僕が鈍感である故か。「了解」と返して、僕はキッチンへ向かう。