花とココアとウエハース

 彼女はカップをテーブルに戻し、ふうと息をつく。

 「なんか、すっきりしました」

 「問題を抱えたときは、視野が狭くなるものだからね」

 「わたし、進みます」

 「そう」

 「最近、少し興味のある分野があるんです」

 「ほう」

 「花……に限らず、植物に興味があって。ちょっと、それを調べながら、大学生活も楽しんでいこうかなって」

 「植物か」

 「ナオさんも好きなんですよね、木」

 「ああ、まあ……」はは、と小さく苦笑する。「僕のこれは、少し変わっているかもしれないけど」

 「変わってる? 植物が好きなのに、おかしいとかあるんですか?」

 「いやあ……」

 「なんです? 純粋に植物が好きなんですよね?」

 「ええ、まあ……」

 「なんらおかしくも変わってもいないですよ。ナオさんこそ、少し視野が狭くなってるんじゃないですか?」

 「そう……なのかな」言いながら、彼女から目を逸らす。

 視野が狭い。そういうことにしてしまいたいと思ったことは何度もある。

 「ナオさん、花には興味ないんですか?」

 「そんなことはないよ。嫌いじゃないし、むしろ好きだけど……」

 ねえ、と彼女は言う。「ナオさんって」と僕の顔を覗き込み、「すっごい物知りじゃあありませんか?」と続ける。

 「物知り……じゃあないよ。僕には知らないことがたくさんある」

 「ふうん……」おかしいな、と微かな声を発しながら、彼女は椅子に座り直した。

 「ナオさんはわたしのこと知ってるんですよね?」

 「ああ、よく知ってるよ」

 「で、もしかしたらっていう人がいたんですけど、違うのかな……」

 「君はその人のこと、いつどこで知ったんだい?」

 「高校です。もう、どういう感じで知ったかなんてことは覚えてないですけど……」

 「そうか」

 「ナオさんの高校時代って、どんなものでした?」

 僕は少し言葉を探して、「いろんなことがあったよ」と苦笑した。

 「そうですか……」

 「やっぱり、君も僕のことを知ってるかもしれないね」

 「そうですか?」

 「うん」

 「じゃあ、あの人ですか?」

 「どの人だろうね」

 「意地悪なことしますね。まあいいです」

 花についていろいろ教えてくださいよと言う彼女の声に、僅かに体温が上がるような気がした。