花とココアとウエハース

 「確かに、ナオさんは友達が少なそうです。天は二物を与えずと聞きますが、本当みたいですね。あの言葉に対しては何度も疑問を感じたんですが、本当みたいです」

 「本当もなにも、僕はむしろ、完璧とはかけ離れた人間だよ」

 「嘘つき」と彼女は笑う。「溢れんばかりの美しさと謙虚さを併せ持った人が、完璧とかけ離れてなどいるものですか。透かしの入った偽札くらい完璧に近いと思いますよ。機械には見抜かれちゃうんでしょうけど」

 「透かしの入った偽札ねえ」

 「なんです?」

 「いいや。実に僕に相応しい称号だと思ってね」

 「完璧に近い自覚あるじゃないですか」

 「そうじゃない。いくら頑張れども、偽のまま。僕にぴったりだ」

 「そんなに自虐的にならなくても。ナオさんがそんなんじゃあ、わたしはどうなるんです」

 「どうなるもなにも、君の進めたいように事を行えばいい。――楽しんでください。何事も、楽しんでいる者には敵わないものです」

 「確かに、そうかもしれませんね。当時、楽しかったかもしれません。だから、今がこんな風に見えるのかも」

 「どの方向を見ていても、進むか戻るか留まるかの三択です。選ぶのは君です。その決断を咎める人があったときには、それを飛ばせるくらい輝けばいいまでです。決断が誤っていなければ、なにも考えずともそれくらいは輝くものです」

 「ナオさんは、決断、咎められました?」

 「ええ。それはそれは」

 「誰に?」

 「先生、ですね」

 「先生」

 「学校のです。進学も就職もしないと言ったときにはもう」えらい怒られました、と僕は苦笑する。「なにかビジョンがあるのかと訊かれたときに否定を返したのもあったのでしょうね」

 「へええ。えっ、今はどう過ごしてるんですか?」

 「特になにも」

 「え、仕事とか」

 「仕事なんて大それたことはしてませんよ」僕は小さく笑いつつ言いながら、顔の前で手をひらひらと動かした。その手をティーカップに付ける。彼女も、思い出したように「いただきます」とココアを含んだ。「やっぱりおいしい」と口角を上げる。皿に載った菓子をさくっと噛むと、「これわたしの好きなお菓子です」と目を輝かせた。「よく似てるとは思ってたんですけど」と言っては手元に残った分を小さな口に収め、もごもごと慌ただしく動かしてココアを飲む。